No.12 おバカなアメリカ人が大好きな医療制度は破綻寸前、でも改革はイヤだって
September 7th, 2009 by Kay Ohara
アメリカの医療費がメチャクチャ高い、というのは有名な話だ。 実感がない人は、アメリカで医療手当を受けたことがないということだから、これはラッキーだと思っていい。
日本人の多くは日本で海外保険に入ってから入国するのだろうが、アメリカの医療機関からの請求額を聞いたら腰を抜かすだろう。
注射一本うつのに数万円、レントゲン1枚とるのに数十万円、 運悪く救急車で搬送されたり、入院したりしたら、たちまち数百万円というお金が吹っ飛ぶのである。
このバカ高い医療費で儲けているのは、実は医者でも病院でもなく、医療保険会社であることは間違いない。
恐ろしいのは、私利私欲に突き動かされた私企業に国民の多くが洗脳され、こんなバカげた制度が良いのだと信じていることである。
このコラムが読まれる頃には、オバマ大統領がその政権の命運を賭けて医療保険改革を後押しするスピーチをする。
もしかすると、聞き分けのない子供を親が諭すように、あるいは皆についていけない生徒に根気よく教えるように、頭の固い頑固オヤジを説き伏せるように、簡単な言葉で語りかけるかもしれない。
そのぐらいしないと、伝わらないのだ。
今までのオバマは「大人が大人に」向かって話すような口調でスピーチをしてきたが、今度ばかりはちょっと違ったトーンになると予測されている。
なぜなら、主に赤い州に住む田舎者のお馬鹿アメリカ人が毛嫌いしているのが、socialized medicine(社会主義的医療)というコンセプトだからだ。
アメリカ人は50年代に「赤狩り」に走るくらい、あるいはかつてソビエト連邦と冷戦になったぐらい、共産主義や社会主義を徹底的に嫌う。それが資本主義、自由市場主義と相対する考え方だと思うからだろう。
だけど、事実は資本主義を掲げる先進国でも程度や制度の差こそあれ、医療は「国民の権利」として保障され、国が責任を取って医療を税金で賄っている。
それがなぜかアメリカでは政府ではなく、私企業が牛耳っている。
その結果、一般の労働者は十分に厚生福利にお金を出せる大企業で働かないと、手軽な医療保険に入れない制度ができあがってしまった。
こっちでフリーランスで働いている人に訊いてみるとわかる。
どんなに個人で医療保険に入ろうとすると大変かを。
家族の人数や保険の内容にもよるが、大雑把に言えば、ひと月10万円ぐらいだろうか。
それもpre-existing conditionといって、既に何か持病のある場合は保険に入れなかったり、入る時に申告していないと保険が下りないという事態になる。
そして、毎月のpremium(掛け金)をきちんと払っているにもかかわらず、いざ病気や怪我で治療をしようにも、姑息な手段を使って抜け道を見つけられ、保険が効かない、ということも珍しくない。
一気に数百万の請求書が来て、働くこともできない、なんて事態に追い込まれたら多くの人は自己破産するしかないことは明白だろう。
アメリカの保険会社は全体の20〜40%近いケースでクレームを却下している、という調査結果が出たばかりだ。
アメリカで自己破産を申告する人の40%が、医療費を払えなくて、という理由を挙げている。
そしてもちろん、こうして支払われた加入者の掛け金は保険会社の社長の給料となり、そのお金でロビイストを大勢やとってアメリカ政府に圧力をかけ、これでいいのだと国民を洗脳してきた。
PHOTO : Muffet
ところが、socialized medicineを毛嫌いすると言いながら、ちゃんと政府が提供する医療サービスは存在する。
アメリカで安く医療を受けられる人たちは受けられる。
まずは退役軍人。
長引くアフガニスタンとイラクでの戦争でかなりシステムに負担がかかっている上、ブッシュ政権時代にかなりカットされた部分もあるが、いったん従軍し、戻ってきた「ベテラン」の人は原則的にV.A.(退役軍人管理局)直営の病院で治療が受けられる。
そしてメディケア。いわゆる老人医療制度。
65歳以上の人なら誰でも加入できて、その辺は日本のご老人と同じ。お国が手厚く(でもないか)面倒を見てくれる。
さらに低所得者層のメディケイド。そして州単位で子供が受けられるSチップという医療制度を後押ししているのも連邦政府なのだ。
こういう基本的なことも知らないで「政府は医療に手出しをするな」というおバカなアメリカ人がいて、サラ・ペイリンとか、ミネソタのおバカ下院議員ミシェル・バクマンという政治家や、グレン・ベックやビル・オライリーといったTV番組のコメンテーターに踊らされて、声高に医療改革に反対しているのである。
なってったってアメリカの医療は最高だ!と信じている。
でも現実はそうではない。例えばinfant mortality rate出生時生存率。
赤ちゃんが死んじゃう国って不潔で、未熟児のケアが足りなくて、産婦人科が足りない、みたいなイメージで、もちろんこの数字は低ければ低いほど良し。
日本は1000人中死亡が3.2件で第3位、アメリカは倍近い6.3で33位。先進国中最低でキューバやブルネイよりも下。
平均寿命はもちろん日本がぶっちぎりトップ(スペインのアンドラが一番、という統計もありますが、これって沖縄だけ取り出して長寿だ、って言っているようなものなのでパス)で、アメリカはこれまたトホホな35位。
アルバニアやクウェートと競っているレベル。
アメリカがブッチギリでトップを独走していると言ったら、その医療費。一人当たり年間医療費が5000ドルを超えちゃっているのだ。
2番目のスイスが3500ドル弱だから、どんなにこれがバカバカしいか、わかるだろう。
「こちとら多額の税金払ってるんだ。誰だって医療を受ける権利があるぞ」とナゼ思えないのか、ほんと不思議。
お隣りのカナダやヨーロッパの制度を知っていれば冷静に比較もできようものの、アメリカ人って国外に出ないもんね。
日本のお年寄りが大学病院で(社交ついでに?)半日過ごしたあげく、「はい、お薬代380円ね」なんてやってるのを見たら腰を抜かすだろうな。
とにかく、またこれでクリントン政権の時も失敗した医療改革が頓挫したら、しばらくアメリカなんぞ「バカの国」と笑ってやっていいよね。
そしてバカは早死にする運命にあるのだ。
これも自明の理だろうが、やっぱりわかんないんだろーなー。
September 7th, 2009 at 12:32 pm
こんにちは。CA在住のkiboと申します。
Health Care Planの行方はどうなるのでしょうね。
ところで上記に書かれたようなことは理解した上での素朴な疑問です。イギリスに移住したカナダ人の友達が一度大病をしてイギリスで手術を受けることになりました。彼曰く「イギリスの国民健康保険は本当に酷い。受けられる医療のレベルにはリミットがあるし質も低い。国民健康保険を使って手術をするのには本当に命の危険を感じたので、自腹でプライベートの病院にて手術を受けた」とのことでした。
もちろんイギリスとUSでは国民保険の内容も状況も違うのかもしれませんが、国民皆保険、ということでだれもが保険を持つことができる一方、政府に医療内容や処方される薬を決められ、今のような高額ですがある程度選択の自由がある医療は受けられなくなるのではないか、というのがわたしの懸念/疑問です。
訳あって毎月高額な医療費を払っていますが、自分たちで病院も治療も薬も多数の選択肢の中から選べています。それができなくなったら私にとって随分困ったことになります。