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裁判員制度

 裁判が歴史的に大きく変わります。「裁判員制度」がそれです。私たち市民の中から選ばれた「裁判員」がプロの裁判官と一緒に刑事裁判します。裁判員の選び方、裁判の進められ方は。裁判がどうやって下すのか。難しいことが多い新制度ですが、皆さんの疑問を分かりやすく解き明かしていきます。

裁判員裁判・法廷詳報(4)の(3)

【遺族の証人尋問】

昼食後、午後1時すぎ再開。

男性検察官が立ち上がって法壇の方を向く。検察官席に並んで座る被害者の長男(37)の供述調書を朗読した。

「父が亡くなった後は父親代わりになって育ててくれた。今も強く感謝しています」

朗読は数分間続き、長男が証言台へ。同じ男性検察官が問い掛ける。

「お母さんの姿を見たとき、どんな状態でしたか」

被害感情の強さを訴える戦術だ。

長男は10秒ほど沈黙し、やがて小さな声で「血だらけで」、少し間をおいて、「でも顔だけは穏やかでした」。はなをすすり上げ、右手のハンカチを顔に当てた。

モニターには、玄関先に立つ被害者の生前の写真が映る。遺影にもなった。「母のお気に入りの写真でした」。被告に動きはなく、表情も変わらない。裁判員は真剣な表情でメモを取り、長男を見詰めた。

検察官「どのような刑を望むか」

長男「正直死刑にしてほしいけど、無理なんで…」

裁判員と裁判官の視線が長男に集まる。

長男「…無期懲役とか、一生刑務所に入るような刑にしてほしい」

1時20分すぎ、弁護人が質問に立った。事件直後に警察署で作成した調書の内容に沿って、細かい問いが続く。

弁護人「『母はひと言で言えばきつい性格』と(警察署で)言ったことを覚えていますか」

長男「覚えていない」

弁護人「『余計な一言を言う』は」

長男「覚えていない」

弁護人「『すぐかちんときて近所の人ともけんかする』と言ったことは」

長男「覚えていない」

弁護人「記憶と一致しないのですか」

長男「一致していない」

「調書に署名、押印しましたね」と念を押す弁護人に、長男はやや興奮気味に「母の死を目の当たりにして、考えつきますか。連れられるようにして警察へ行き、調書を作って、その時の心境は夢みたいな感じで、信じられませんもん」と応じた。

再度、検察官が質問に立つ。

検察官「あなたのお母さんは近所の人たちとよくけんかをしていましたか」

長男「しょっちゅうではなかったと思います」

検察官「親類の人に対してはいかがですか」

長男「ずけずけとものをいうことはあった」

調書の内容とは微妙に異なる答えに、裁判員は緊張した表情でメモをとり続けた。

「法廷での証言が、調書作成時と異なる」と検察官が強い口調でただすと、長男は「調書は事件後すぐに取ったので頭が混乱していた。警察官に頭に浮かんだことを話せと言われていた」。

このやりとりに首をひねる裁判員もいた。

【裁判員が初の質問】

1時45分、秋葉裁判長が「少し打ち合わせをします」と裁判員とともにいったん退廷した。

15分後に再開。秋葉裁判長が白いシャツを着た女性裁判員に目をやる。

「それでは4番さん、どうぞ」

「はい」

法壇に向かって左から数えると3人の裁判官席をはさんで4番目の裁判員。

「えーっと、先ほどの人物像の説明で、調書の食い違いが引っ掛かるのでお聞きします」

これまで裁判員の“肉声”はなく、法廷が静まり返る。

「確認の仕方はどうしていたのですか」

秋葉裁判長が「調書を作ったときの内容の確認方法を聞かれています」と補足した。

長男「正直覚えていません。何を言っていたか分からないくらいボーッとしていて。サインして、はんこ押してと言われ、流れるようにやっただけです」

女性裁判員「自分で読んでサインしたのですか」

長男「正直、読んだことも覚えていない。気が動転していて、昼からまるっきり記憶がない状態。なぜここにいるんだ、との心理でした」

女性裁判員「ありがとうございます」

続いて裁判官が、「被害者から挑発された」との藤井被告の供述について問うと「おれから言わせりゃ全部がでたらめ。おふくろが『やるならやってみろ』などの言葉を使った記憶はない」と語気を強めた。

2時5分、長男の証人尋問は終了。検察官が、殺害された女性の母親の調書を朗読し、2時13分、休憩。

(共同通信社 2009年08月05日)

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