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天声人語

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2009年9月7日(月)付

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 アメリカンフットボールの伝説的指導者ニュート・ロックニーに名言がある。〈要は個人ではなくチーム一丸で動くこと。私は監督として、ベストの11人ではなく、11人でベストになる選手を使う〉▼スターに頼らず、まとまりの中から力をひねり出すのが団体競技のイロハだろう。究極のチームプレーである政治もしかり。とりわけ、期待も不安も大きい政変後の内閣は、実力者をそろえた上で、結束と結果を求められる。花も実もである▼1954(昭和29)年に成立した鳩山一郎内閣は、なかなかの顔ぶれだった。大戦の降伏文書に署名した重光葵(まもる)が副総理・外相に座り、蔵相には法王と呼ばれた日銀総裁一万田尚登(いちまだ・ひさと)。通産相の石橋湛山(たんざん)、運輸相の三木武夫は後に首相となる▼55年の時が流れ、もう一つの民主党が「ベスト」づくりに腐心している。鳩山代表は祖父に倣ったか、菅直人、岡田克也氏らを要職に、脇にテレビ論客もちりばめ、重厚かつ清新な布陣にするらしい▼なにせ、小沢一郎氏が仕切る巨大与党と釣り合わせる必要がある。「鳩山・一郎内閣」の陰口を封じるには、花も実もある組閣で公約実現に動き出すしかない。「日本のマネジメントは鳩山、党と選挙は小沢」の分業がうまく動くかどうか、両者の器が試されよう▼冒頭のロックニーには〈勝ちすぎは負けすぎと同じほど悲惨だ。どちらも大衆の熱狂を冷ます〉の言もある。だが、大差の総選挙に白ける間もなく、いよいよ本当の勝負が始まる。チームと戦いぶりを確かめようと、スタジアムは満員だ。

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