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社説

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鳩山人事―政権移行の態勢を急げ

 16日の新首相指名まであと1週間あまり、鳩山政権の骨格人事が固まってきた。鳩山代表は注目の国家戦略局担当相に菅直人代表代行を副総理兼務であて、岡田克也幹事長は外相に、財務相には藤井裕久最高顧問を起用する意向だという。

 幹事長に内定した小沢一郎氏に続いて、党の重鎮を内閣の重要ポストに配置する形だ。国の仕組みを変えようという大仕事を担う顔ぶれとすれば、これ以外にはない選択だ。

 最大の目玉は、「脱・官僚依存」という民主党の旗じるしを担う国家戦略局担当相への菅氏の起用だ。鳩山新政権の内政、外交の基本と枠組みの構築を担当し、民主党が掲げる政治主導の文字通りの司令塔の役回りである。

 菅氏といえばすぐに思い浮かぶのが、自社さ連立政権の厚生相として、薬害エイズ関連資料の存在を暴いた行動力だ。鳩山氏とともに、結党以来の民主党の顔でもある。

 政策通として評価され、省庁横断的な戦略づくりにはうってつけだろう。官僚の抵抗を封じつつ、新しい政策決定プロセスの中に巨大な官僚機構の力をどううまく活用するか。司令官としての度量と手綱さばきが問われることになる。

 岡田氏は、党代表時代に「岡田ビジョン」という外交戦略を発表し、日米同盟を基軸としつつ、アジアとの連携を深める現在の民主党路線の基調をつくった。

 岡田氏は、在日米軍基地の見直しにも、積極的な発言をしてきた。自民党時代とは違う新たな日米同盟の姿を模索しようという思いなのだろう。

 アフガニスタン問題での支援の再検討、核をめぐる日米密約問題など、難しい問題も山積している。

 一方、党の地球温暖化対策づくりを率い、「北東アジア非核兵器地帯構想」をまとめるなど核軍縮にも熱心だ。温暖化と核の不拡散はオバマ米大統領が重視する政策であり、日米協調の新しい柱になりうるものである。

 重要閣僚が固まったのを受け、政権移行の作業を本格化させなければならない。国家戦略局担当相と財務相を中心に、補正予算案と来年度の予算案の編成に向けて移行チームづくりを急ぐことだ。

 さらに、新政府の発足直後、鳩山新首相は訪米し、国連総会やG20金融サミットなどに出席する。米国や中国との首脳会談もありそうだ。北朝鮮をめぐる動きにもすぐ対応できるよう備える必要がある。

 民主党は閣僚や副大臣などとして100人以上の政治家を政府に投入する方針だ。どれも重要な人事だが、大勝に浮かれて、ポスト争いにかまけている余裕はないことを肝に銘じてもらいたい。

核燃サイクル―練り直す時ではないか

 青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場で、日本原燃は先月の予定だった試運転終了の時期を来年10月まで延ばすことにした。高レベル放射性廃棄物のガラス固化試験でトラブルが相次いでいるせいだ。先延ばしは、これで17回目となる。

 原発の使用済み燃料からプルトニウムとウランを取り出す再処理は、自民党政権がめざしてきた核燃料サイクル政策に欠かせない。六ケ所村の再処理工場は2兆1930億円かけて建設された。支えているのは私たちの払う電気料金である。

 今回の延期が1年以上にも及ぶことは、トラブル解消の難しさを物語っている。来年中に本格操業を始められるかどうかも不透明になった。

 考えるべきことは非常に多い。

 これまで政府が核燃料サイクルの実現をめざしてきたのは、資源を有効活用するためだ。この立場だと「再処理を進めるべきだ」ということになる。

 その一方で、相次ぐトラブルに「サイクル路線から撤退を」という声は強まるだろう。「あわてる必要はない」という見方もある。プルトニウムの使い道が限定されている今、再処理を進めるとプルトニウムの在庫が増えてしまうからだ。

 国際社会の動向にも目を向けなければならない。プルトニウムは核兵器の材料にもなるから、再処理が広がると軍事転用の危険も大きくなりかねない。「核不拡散のため再処理を多国間の管理下に置いた方がいい」。そんな考え方が出ているのだ。

 日本は唯一の被爆国であるだけでなく、非核保有国の中で、例外的に再処理ができる立場にある。多国間管理の議論には積極的に加わらねばなるまい。そのなかで、六ケ所村の再処理工場について判断を迫られる局面も出てくるだろう。

 日本政府として、自前のものだと主張するのか。再処理工場に多国間管理の一翼を担わせるのか。あるいは、思い切って操業を凍結させるのか――。

 こうした新しい状況を踏まえて、鳩山新政権は核燃料サイクル政策を土台から練り直し、方針を固めるべきだ。そのために、この1年余の空白期間を生かして、再処理やプルトニウム利用について幅広く一般の人々や専門家の意見を聴く場を設けてはどうか。

 もう一つ、見過ごせないのは、このままだと原発の運転に支障が出かねない、という懸念だ。

 全国の原発からは毎年1千トンの使用済み燃料が出る。再処理工場の貯蔵プールはすでに満杯に近いのに、原発で搬出を待つ使用済み燃料は増え続けている。使用済み燃料を一時保管する中間貯蔵施設づくりをどうするか。

 鳩山新政権にとって、原子力政策をめぐる難題も待ったなしだ。

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