あの人は今こうしている　ベテラン俳優の山本昌平さん

　相手を射すくめるような鋭い眼光と深いソリコミがトレードマークの悪役俳優といえば、もちろん、山本昌平さんだ。悪代官にヤクザの親分、はたまた冷酷な殺し屋など、どれを演じても存在感バツグンだった。一時はバラエティー番組にも出演し、ファン層を広げたが、最近は見る機会が減った。今どうしているのか。

「これが今のオレの商売道具なんだよ」

　有楽町駅に近い中華料理店で会った山本さん、こういってカバンから何やら取り出した。よくよく見れば、ギョッ！　銃身２０センチほどのピストルではないか。

「それもただのピストルじゃない。銃身にハーモニカが仕込まれてるのよ。殺伐とした今の世の中、寂しい思いをされてるお年寄りや体が不自由な方は多いだろ。そうした方たちに一時でいいから、気晴らしをしてもらいたくてね。１０年前から、この手製のピストル片手に老人ホームや福祉施設、病院なんかをボランティアで回ってるんだ」

　ピストルを手にボランティア……。なるほど、わかった。いきなりピストルを取り出して驚かせ、それがハーモニカに化けて、聴衆の心をつかむという仕掛けか。

「そう、ご明察。ハーモニカは３つのガキの頃からやっててね。３年前には『我が心の詩』って、１３曲の童謡をハーモニカで演奏したＣＤを出したこともあるんだよ」

　これまで１００カ所を超える施設で演奏会を開いたという。

「この７月には福島県のある総合病院で患者さんや地元の人たち１２０人を前に、コンサートをやった。『赤とんぼ』や『さくら』など１０曲を演奏したら、最初はオレの顔を見ておびえてた人たちも、最後は大喜びだったよ。“悪役も地に落ちたもんだ”なんて憎まれ口をたたいた当人が、涙を流しながら聞いてくれる。うれしいじゃないか」

　また、悪役経験に基づいた講演にも力を入れている。

「そっちは警察署や学校が主だ。例えば生徒が荒れちゃって、どうしようもない高校に呼ばれたとしよう。オレは白いスーツ姿で演壇に上がり、悪役を演じることで自分なりに学んできた生徒、親、教師のあり方を話す。そうすると不思議なことに、札付きの生徒も正座して真剣に耳を傾けてくれるんだ。これからは機会があれば、少年院を回ってみたいと思ってる」

「殺し屋が武器をハーモニカや講演に変え、聞く人のハートを狙う。悪役が驚きあきれるほど悪い今の世の中を、少しでも良くしたくてね」

　と山本さん。いや、この口上、実にカッコいい。しかし、だ。どうも“いい人”過ぎて、イメージが狂ってしまう。

「悪役生活はほぼ半世紀。確かに今さら善人を演じても、見る人も戸惑うよな。で、コンサートや講演会では最後に、きょうのワタシの顔は忘れて下さいって頼むんだ。忘れてもらったら、また悪役をやったら、すんなり受け止めてもらえるじゃない、ハハハ。まあ、仕事に関してはテレビの出番こそ少なくなったけど、映像と芝居はトシを忘れてガンバってるよ」

　今月３０日、宮城県白石市である「みちのくおとぎ街道語り部の集い」に参加する。

（日刊ゲンダイ2009年8月27日掲載）