あの人は今こうしている　笹みどりさん（ベテラン歌手）

　きょう登場の笹みどりさんといえば、古風な女の生き方を切々と歌うベテラン歌手だ。まあ、どこか薄幸の歌手というイメージがある。６６年にテレビドラマの主題歌「下町育ち」が大ヒットし、売れっ子になった。しかし、最近はあの哀調を帯びた歌声を耳にしない。今どうしているのか。

●「今も年に２曲のペースで新曲を出させていただいているわ。正直演歌は売れないのよね」

「こういう取材は、ホント、久しぶり。ワタシの場合、あんまり緊張したり興奮したりすると体に良くないの。だから、お手柔らかにお願いね」

　渋谷駅に近いホテルの喫茶室で会った笹さん、まずはこういった。笹さんといえばしっとりした和服姿を想像するが、この日は洋装。いや、若々しい。

「あら、若いだなんてうれしい。ここだけの話、もう還暦を過ぎてるのよ。芸能生活も今年で４４年目になる。１歳だった子供が４４歳になるんだもん、年をとるはずね。来年はデビュー４５周年よ。新曲？今も年に２曲のペースで出させていただいてるわ。去年は『秋しぐれ』って曲をレコーディングして、何年かぶりにキャンペーンで京都を走り回った。ただ、正直、演歌は売れないのよね」

　７月は熱海・後楽園ホテルで立川談志、三島敏夫とジョイントディナーショーを開いた。

「テレビからのお呼びは少なくなったけど、地方のイベントからはけっこう声がかかるの。ありがたいことだわ」

　さて、笹さんは東京五輪の翌年の６５年、１７歳のとき、フジテレビのメロドラマ「女の舞台」の主題歌でデビュー。その続編の「下町育ち」が大ヒットし、以来、「女の絶唱」「母子舞い」など１９ものメロドラマの主題歌を歌った。

「紅白に出たり、順調に階段を上がって、さあ、これからっていう２０代半ばに２度大病に見舞われたでしょ。あれが痛かった。最初は（昭和）５１年、公演先の小倉でのクモ膜下出血、２回目は次の年、公演で泊まってた三重・長島温泉のホテルで全身マヒで倒れちゃった。そのときは側脳室内頚動静脈奇形って戒名にでもなりそうな名前の難病で、東京の逓信病院で８時間３０分もかけて手術を受けたの。手術が成功しても植物人間か、なんていわれてたのをはね返してカムバックできたのは、もう一度歌いたいって一心ね」

　今でもたまに片頭痛に悩まされるという。

「不思議なことに、仕事中は大丈夫なの。で、後遺症というより、更年期のせいじゃないかと思ってるんだけど、ハハハ」

　独身。結婚歴はない。

「興奮は禁物ですから、結婚は見送りました。ほら、結婚すると何かと興奮するじゃない、ハハハ。あと、一緒に暮らしてたお母ちゃんも結婚させたくなかったみたいだったし」

　その母は９１歳になる。

「歩行もおぼつかなくなり、耳も遠くなったので、実家がある湯河原の病院に完全看護で入院してるの。しょっちゅう病院に行って、一緒に持参したお弁当を食べてる。お母ちゃんもそのときが一番落ち着くみたい。せいぜい親孝行しなくっちゃ」

（日刊ゲンダイ2009年8月4日掲載）