この人物のオモテとウラ　大崎洋（吉本興業社長）

「どないなっとるねん」――関西人ならずとも思わずつぶやいてしまったのではないか。吉本興業によるＭＢＯ（経営陣による自社買い）の話だ。第一報が出たのは７月２８日のこと。同社が株式を非上場化する方向で検討しているとして、「他のプロダクションとの提携や合併など芸能界の再編に乗り出すことも視野に入れているのではないか。さらに民放各局とも関係を強化し、大量の株を保有する創業家の影響力を弱める狙いがあるはず」（関係者）などと解説された。

　ところが、翌日、同社から「事実はない」と否定するコメントが出たから、それこそ「どない――」なのだ。前出の関係者によると、民放各社が参加するファンドが買い付けを行う方向で調整していたが、買い付け総額が５００億円と高額のため、資金調達のメドが立たなかったという。渦中にいる大崎洋社長とはどんな人物か。

　１９５３年、大阪府出身。７８年に関西大学社会学部卒業後、吉本興業に入社。学生時代はサーファーで、将来は古本屋になるつもりだったが、たまたま大学の就職課で求人募集を見つけて応募する。理由は「服装が自由」「月に７〜８回の休み」。「月に３週間ぶっ通し働き、１週間丸々サーファーになれる」はずだったが、これが大きな勘違い。入社早々、笑福亭仁鶴の現場マネジャーになり、芸能界のしきたりや、マネジャーの役割を教えてもらったという。

　２年間の関西勤務を経て、８０年に東京支社（当時は東京事務所）に転勤して、漫才ブームの時代を支えた。２年後に再び関西に戻って吉本総合芸能学院（ＮＳＣ）開校時の担当社員になるが、華やかな世界から一転、地味な世界に回された大崎はすっかり腐ってしまった。そんな大崎を発奮させたのが、フジテレビで「オレたちひょうきん族」など芸能番組を次々にヒットさせた大物プロデューサー・横沢彪。「新しいことをやらないと。姿勢は吉本を向いていても、発想はアンチ吉本でないと」と励まされた。

●業界も注目、ＭＢＯのオチ

　その後、無名時代のダウンタウンの才能にいち早く気づいてマネジャーに。彼らが出演した８４年「心斎橋筋２丁目劇場」で女子中高生から圧倒的な人気を得る。大阪で頂点に立ったダウンタウンを東京に進出させ、一躍全国区のスターにのし上げた功績は大きい。

　９０年「つぶしてやろうと思っていた」新喜劇の担当を命じられる。当時、新喜劇はどん底時代で、舞台の方が客席より人が多い日が続く。そこで「やめてもいいなら、やめようか」と周囲の危機意識をあおりながら、人材の入れ替えや東京公演などの大胆な手を相次いで打った。これが当たって新喜劇は息を吹き返した。

　またインターネット時代に対応したネットビジネスの展開も図り、音楽など総合エンターテインメント路線にもチャレンジした。周囲の予想通り、社長に就任したのが今年の４月。経営手腕が問われるのはこれからだが、ＭＢＯ騒動のオチが「なんでやねん」とならぬよう期待する。

（日刊ゲンダイ2009年8月5日掲載）