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【衝撃事件の核心】「白い靴下」「他人の窒息」に興奮する性癖はなぜ生まれたのか〜処刑された自殺サイト殺人の前上博死刑囚 (3/3ページ)
父親は警察の白バイ隊員だった。仕事が忙しかったこともあり、前上死刑囚に向き合う時間はほとんどなかったが、「お父ちゃんは悪人をつかまえるために働く正義の味方なんだ」と思慕の念を抱いていたとみられる。
それが「白ヘルメット」への執着という形で表れ、幼稚園児のころにその性癖が芽生え始める。幼稚園が休みの日に、郵便配達員の白いヘルメットに興奮して後をついて回っていた。小学低学年のときには、隣のクラスの担任がはく白い靴下でなくスニーカーに興奮し、その後一時的に性癖は収まったが、中学に入り、再び白いスクールソックスに異常な興奮を示すようになった。
そんな中、小学4年生のとき、父親に対する感情が変化するきっかけとなる出来事が起きた。
家の中で突然、父親が前上死刑囚の腹の上に馬乗りになり、首を絞め上げた。前上死刑囚はこのときの父親の能面のような血の気のない顔が忘れられないという。またその直後に父親が飲酒運転で事故を起こしていたことを知り、「父は正義の味方ではなく犯罪者だったんだ」と思うようになった。
長谷川教授は「尊敬していた父親から虐待に近い暴力を受け、人を窒息させることで、自分を父親に同一化させるようになったのだろう」と分析し、公判で証拠採用された精神鑑定書が示した「性的サディズムとフェティシズム」をまっこうから否定した。
さらに長谷川教授が驚いたのは、前上死刑囚の記憶力だった。IQ128と高い知能を持つ上、30年以上前の出来事も絵画のように細かく描写することができたという。
また病院で女性ホルモンを注射してもらおうとするなどしており、長谷川教授は「彼には自分の欲望を抑え込もうと懸命に努力してきた側面があった。その点では自分に誠実で正義感が強い人だったといえるのではないか」と振り返る。
最後の接見の際、前上死刑囚は接見希望者リストから長谷川教授の名前を外すことを告げた。
理由を聞くと、「現実の世界で僕の唯一の楽しみは、自分のことをよく知っている先生と会うこと。ただ死刑を待ちながら先生と会える日を楽しみに生きていくのは辛すぎるので、空想の世界に逃げるつもり。僕はそんなに強くない人間なんですよ」と弱々しく微笑んだという。