(cache) 有識者会議のまとめ

トップに戻る

ＦＡＱに戻る

有識者会議のまとめ

はじめに

　現在は、首相はじめ閣僚、各議員、マスコミなどの発言に注目が集まっていますが、今一度、本問題の重要な核の１つである「皇室典範に関する有識者会議」に再注目してみたいと思います。

有識者会議の基本情報(別ページ)

　この有識者会議は、さまざまな書籍やサイトで触れられているとおり、１年の期間の間、公式会議に費やした時間が約３０時間という、国の根幹に関わる問題を扱う会議としてはあまりに短いもので、また、メンバーも座長以下、確かに「有識者」と呼ぶことはできても、皇室の専門家とは到底呼べない、むしろそこら辺(私も含め)の半可通程度の知識すら持たないような人物ばかりです(全員といいませんが)。その一端をちょっと紹介します。以下はこの会議の議事録から採ったものです。(文中の文字強調は引用者による)

・新旧皇室典範の制定時の議論については、例えば、なぜ兄弟継承ではなく直系継承が優先されているのか、万世一系というのはどういう概念かなど、今日の視点から見ると、わかりづらい点もあるが、一方で論点には現在の議論と共通する部分もあり、参考になる。(第２回)

・今回の江戸時代以前の皇位継承と前回議論した明治時代及び戦後の皇室典範を比較するとどういう異同があるのか、という質問に対し、事務局から、(以下略)（第３回）

・女性天皇のうち、2方だけ重祚している。その事情もいろいろ異なり、そのことの意味づけも難しいと思うが、男性天皇で重祚の例はあるのか、との質問があり、事務局から、男性天皇の重祚の例はないとの説明があった。(第３回)

・歴史、背景等が異なり単純な比較はできないが、諸外国の王位継承制度は、男子優先の国、長子優先の国、男系男子のみの国などさまざま。（第４回）

・皇籍離脱等については、最終的には皇室会議で決めるという仕組みとなっているが、皇室会議はどのような構成になっているのかとの質問があり、(以下略)（第１３回）

…正直、たとえ専門家でなくても、それぐらい自分で勉強してこいよ、っていうようなものが多いんです。上述の「皇室会議の構成」なんて、今まさに改正しようとしている皇室典範に記述してあるわけですから。つまり、どの委員かはわかりませんが、第１３回まで皇室典範に目を通していなかった、ということです。ちなみに皇室典範は第１回で資料として配付してあります。

　さて、そんな「有識者」の皆さんで３０時間ほど議論をすることに、何らかの成果を期待できるんでしょうか？

　当然、常識的に考えれば「否」です。３０時間といえば、１日８時間勤務で約４日間に相当します。こんな短時間のうちに、①新典範の方針を決め　②それに沿った内容を議論し　③１つにまとめ上げる　という作業は、仮に皇室制度の専門家が集まっても無理です。

　では、この会議の主催者である首相・官邸は何を期待していたのでしょうか。

　それはアリバイづくりです。つまり、世間的に評価の高い・高そうな人を集め(もちろん「イエスマン」となりうる人物を中心に)、会議をしてもらって方向性を決めてもらいましたよ、というポーズです。これは断言できます。なぜなら、例えば、「男系を維持するのか」「女系を容認するのか」の１点だけとってみても、方向性を決めるには相当議論が必要です。首相・官邸もそんなことは百も承知でしょう(わからなかったらそれはそれで問題です)。つまり、①新典範の方針　②それに沿った内容　の大筋の結論は会議前に決まっており、それを委員の誰かに伝えたり、あるいは会議の進行などで誘導した、と考えないと、このような時間・人選では何も決まらないということは自明なわけです。

　また、次のような発言があります。

・学説をたたかわせて結論を出すのではなく、多くの人が納得できる提案を出すことが重要（第１回）

・この会議のすすめ方は、最初から議論を戦わせて集約するのではなく、現在の状態を分析的に見たうえで、多くの人が納得できる方向を探るということではないか。(以下略)（第９回）

どんな状況での誰の発言かはわかりませんが、前述の推測を裏付けるものだとするのは無理でしょうか？

－配付資料と報告書－

　この「有識者会議」にとって最も重要なのは、誰がメンバーであるか、ではなくて、どのような資料が配られたか(あるいは配られなかったか)、にあります。メンバーのほとんどが皇室制度に無知な人間である以上、与えられた情報・与えられなかった情報が報告書の核になります。特に第１回、第２回で配付された資料が報告書に強く影響していると思われます。

　まず、第１回資料ですが、資料１「現行皇位継承制度の仕組み」において、憲法第２条「世襲」の説明として、制定時の委員会答弁を引用しています。その中でも注目すべき箇所を抜き出します。

「皇位継承資格を男系に限定せず女系にも認めるためには、憲法改正を要しないと答弁している。」

いきなりこれです。さらに答弁を引用し、補足しています。(引用部分は資料中で下線強調してあります。)

①金森徳次郎(国務大臣)(昭21.7.8衆・帝国憲法改正案委)
「此の第２条には其の制限が除かれて居りますが故に、憲法の建前としては、皇男子、即ち男女の区別に付きましての問題は、法律問題として自由に考へて宜いと云ふ立場に置かれる訳であります」

②金森徳次郎(国務大臣)(昭21.9.10貴・帝国憲法改正案特別委)
「男系の男子と云ふことは第２条には限定してありませぬ」

③関道雄(内閣法制局第一部長)(昭41.3.18衆・内閣委)
「必ず男系でなければならないということを、前の憲法と違いまして、いまの憲法はいっておるわけではございません」
「憲法が禁じているわけでもありません」

④工藤敦夫(内閣法制局長官)(平2.5.24参・内閣委)
「憲法第２条は皇位継承者を男系の男子に限る、こういう制度を許容している」

女系容認に憲法上の支障はない、ということをこれでもかと強調しています。本来、法律的な技術論は後に回されるべきところを、第１回目の資料でこれでは「女系容認ありき」といわれても仕方ありません。

　第２回の資料ですが、資料２「現行の皇室典範制定時の考え方」－「３　皇位継承制度に関する現行の皇室典範制定時の考え方」において、男系男子に限定する理由を制定時の国会答弁を元に、以下のように挙げています。

　　①過去の事例、国民の意識に沿う
　　②歴代女帝は臨時・中継ぎ
　　③女帝を可能にすると継承順序に問題
　　④男性の皇位継承資格者が十分に存在
　　⑤女性の皇位継承には研究が不十分

ここの論拠を崩せばよい、ということです。つまり、

　　①伝統を否定し、国民の意思は女帝を容認している
　　②歴代女帝は重要な役割を担っている
　　③継承順位を明確にする
　　④男系男子のみでは皇統が絶える・旧宮家の復帰を否定する
　　⑤この会議で研究したとすればよい

これらがクリアできれば、女帝を容認できる、ということになります。

　では、報告書を見てみます。(文字強調は引用者による)

①－１
「伝統の内容は様々であり、皇位継承についても古来の様々な伝統が見られるほか、戦後の象徴天皇の制度の中で形成されてきた皇室の伝統もある」(p.3)

①－２
「伝統とは、必ずしも不変のものではなく、各時代において選択されたものが伝統として残り、またそのような選択の積み重ねにより新たな伝統が生まれる」(p.3)

①－３
「国民の間では、女子や女系の皇族も皇位継承資格を有することとする方向を積極的に受け入れ、支持する素地が形成されている」(p.10)

①－４
「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することは、社会の変化に対応しながら、世襲という天皇の制度にとって最も基本的な伝統を、将来にわたって安定的に維持するという意義を有する」(p.11)

③
「「長子優先」の場合、出生順に皇位継承順位が決まる」(p.14)

④－１
「仮に現世代に５人の男系男子が存在するとして、現在の社会の平均的な出生率を前提に、将来世代の男系男子の数を確率的に計算してみると…」(p.7)

④－２
「旧皇族は、既に６０年近く一般国民として過ごしており、また、今上天皇との共通の祖先は約６００年前の室町時代までさかのぼる」(p.7-8)

④－３
「当事者の意思を尊重する必要があるため…不安定さを内包する」(p.8)

④－４
「これまでの歴史の中で極めて異例…平安時代の二例しかない」(p.8)

突っ込みどころが多々ありますが、そこらへんはFAQで書きます。なお、②については、第２回の資料で、「歴代の女性天皇の時代にわが国の文化は大きく発展した」とし、

　　推古天皇…聖徳太子、飛鳥文化(大化の改新、奈良・平安文化の源流)
　　皇極天皇…大化の改新
　　持統天皇…暦
　　元明天皇…平城京、古事記、風土記
　　元正天皇…日本書紀、養老律令

と挙げられています。歴代女帝の功績を全く否定する気はありませんが、いささか強引ではないでしょうか。

－配付資料に載らなかったもの－

　第１回の資料で憲法上の女系容認の論拠とされている金森大臣ですが、別の答弁で、

「(現行典範制定に当たり)現實の扱ひ方と致しましては、法制調査會を經由致しました外に、宮内省と密接なる連繋を取り事實に於きましては、其の筋を通して十分皇室側の御意見を伺ひ得て居ると信じ、又原案を茲に編込みまする上に於きましては、宮内省側の意見と完全に一致して居ると云ふ方法を以て結論を得て居りまするので、實質に於きましては、十分然るべき方面の意嚮を質して居ることにならうかと考へて居ります」(S21.12.17　貴・皇室典範案特別委)

と述べ、「然るべき方面の意向」の裏付けを得て典範作成に当たっている、としています。この答弁は、「有識者会議」の資料にはありません。（もしあったらゲストブックににてお知らせください。）また、この直前の答弁は、「皇室典範は憲法に基づく法律である(憲法に附属する)」という資料として掲載されています。

　会議の方向性として、「皇族方の御意向をどのように扱うか」は極めて重要な問題と思われますが、それに関する重要な資料を提示しなかったのはどのような理由なのでしょうか？

－妄言集－

　議事要旨に掲載されている論評に値しないどころか、発言した委員の知性・品性を疑うような発言を紹介します。

・議論に当たっては時代の流れの中で変えていいものと変えてはいけないものを見極めるための勉強が必要（第１回）

・事務局から、直近の皇籍離脱の例としては、昭和22年10月、当時の状況を背景として、現行皇室典範に基づき、11宮家51方がその御意思によって皇籍を離脱された事例があるとの説明があった。（第２回）

・外国王室の場合、男女平等という背景の他にも、全般的な傾向として少子化ということもあるのではないか。（第４回）

・伝統というものをどのように考えるのか、非常に狭すぎるように使われることはないか、ある伝統を守ろうとすると他の伝統との間で問題をおこし、いわば伝統同士がぶつかることはないか、伝統という言葉の使い方には細心の注意を要する場合がある。（第５回）

・古代以来の伝統のほか、過去６０年の伝統もまたたいへん重い伝統である。（第５回）

・男系を中心とした家の継承を理想としてそれを皇室に求める、という考え方が男系男子説の背景にあるのではないか。（第９回）

・現実に続いてきたことが大事だということはあるにしても、なぜ男系が大事かということについては、歴史的にも説明されていないのではないか。（第９回）

・伝統というものは、単なる伝承や因習ではなく、それぞれの時代の試練に耐えて創造的に形成され、維持されてきたものである（第９回）

・皇位継承順位に関するルールはできるだけ簡明であるべきであり、偶然的な要素に左右されたり、非常に複雑になることはできるだけ避ける方向で考えるべきである（第９回）

・旧皇族の復帰や養子を認める、庶系を認めるというようなことは、一切、皇室典範の議論の枠の外ではないかと思う。（第９回）

・家や少子化に関連することなど社会の状況や国民の意識を考える場合には、都会と地方部など、地域性にも配慮しなければならない。（第９回）

・非常に理念的な考え方や、あまりに立派な原理原則にこだわらないで、その場その場に応じて柔軟な議論をしていく必要がある。（第９回）

・どのような世代がこの会議で扱っている問題に興味をもち、この論点の整理をよむかと考えると、おそらく若い人は少なく、年配の方が多いのではないか。（第１０回）

・少子化は皇室とも無縁ではない。（第１１回）

・国民の理解と支持を得るということからは、国民の生活をある程度は視野に入れる必要もあるのではないか。（第１１回）

・安定性ということになれば、女性天皇、女系天皇も視野に入れることになるが、伝統との関係についても、皇籍を離脱した方やもともと皇族でなかった方が皇族になることはきわめて異例であることを考えると、女性天皇・女系天皇はぎりぎり可能なのではなく、大いに可能なのではないか。また、将来にわたって明るい展望もある。（第１１回）

・男系男子であることが天皇の制度の唯一の正統性の根拠だという考え方は、無理してハードルを高くし、自らの手足を縛って、正統性を自ら縛ってしまうということになるのではないか。（第１１回）

・女性は妊娠・出産に伴う負担があるという理由で男子を優先すべきとの意見がヒアリング等でも述べられていたが、妊娠や出産は病気ではなく、女性に負担が重いという考え方は今日ではあまり一般的ではない。今の時代と合わないように感じる。（第１２回）

・かつては妊娠・出産の負担は十分に考慮すべき事由であったが、今日の状況では一般的ではない。（第１２回）

・直系で、親から子へ継承されることが自然。（第１２回）

・世襲ということからは、親子の逆転は避けた方がいいのではないか。（第１２回）

・男性の配偶者を迎えることと女性の配偶者を迎えることと、どちらが難しいかなどということは言えないのではないか。（第１３回）

・国民が世襲制の天皇についてどう考えるかというと、男系に固執するよりも、親から子へと、直系で受け継がれること（第１４回）

・象徴に性別はないと考えるのが健全（第１４回・第１６回）

・国民の一部に非常に強い反対意見の方がおられるが、このような我々の会議の進め方を含め、大方の国民の理解は得られるのではないか。（第１４回）

・女系天皇の正統性に疑問が生じるとの議論をする方があるが、世襲で皇位が継承され、国民の積極的な支持が得られる限り、正統性に疑義が生じる余地はない。（第１４回）

・皇籍復帰して皇位を継承することは、これまでの歴史の中で極めて異例であり、国民の理解も得られないと考えざるを得ない。（第１４回）

・報告書の結論について、女性、女系容認という表現が使われることがあるが、容認ではなく、継承資格の拡大であって、重要な役割を担っていただく皇室の新しい未来が更に開けていくということだと考える。（第１７回）

・妥当な結論をいただいた（第１７回　内閣総理大臣　小泉純一郎）