地域と病院が協働で魅力ある臨床研修カリキュラムをつくり,若手医師に臨床研修先として選択してもらうことで,医師の地域への定着,地域医療の再生に取り組んでいる地域がある。
研修のようす(左が加賀谷宏基氏) |
取材当日に研修を受けていたのは,卒後3年目研修医の加賀谷宏基氏。テーマは「体からの定期連絡:便が変だったら」で,10名ほどのサポーターが集まった。研修は,加賀谷氏の自己紹介と15分間の講話のあと,サポーターからの講話に関する質問,30分間の自由討論からなる。そして最後に,懇話会における研修医の身なり,態度,声の大きさ,話の速さ,専門用語の言い換えの工夫などについて,サポーターたちが評価を行い,後日,フィードバックする。
この研修の効果は,研修医のコミュニケーション能力の向上だけではないと藤本氏は語る。医師は住民たちとの対話により,住民が持つ健康に関する悩みや,医学・病気に関する知識の量・正確さを把握し,実際の診療に役立てることができるのだ。実際に,講話についての質問では「加齢に伴って便秘がちになった」「便意はあるが,お通じには至らない」など,日ごろの生活における悩みが大多数を占めた。このような住民の悩みを把握することが,患者の実情に配慮したよりよい医療につながっていくのだろう。
この研修で医師のコミュニケーション能力が養われれば,患者の病気や暮らしに対する理解が進み,患者はよりよい医療を受けられるだけでなく,医師自身も十分な相互理解のもと,安心して医療を提供できる。医師と患者の両方にプラスの効果が生まれる。
研修医の中には,同院を研修先とした理由のひとつにレジデント研修を挙げる者もいるという。地域医療再生のモデルとして,注目すべき試みだ。