ここから本文です

【仕事人】協力雇用主・渡辺道代(わたなべ・みちよ)(61)

9月6日12時30分配信 産経新聞

【仕事人】協力雇用主・渡辺道代(わたなべ・みちよ)(61)
拡大写真
出所者にとって頼りになる存在の渡辺道代さん。「まずは信じてあげること」(写真:産経新聞)
 「あの人たちがいなかったら、会社もここまで大きくならなかった。みんな家族と一緒なんです」

 “あの人たち”とは刑務所や少年院の出所者たち。彼、彼女らの前歴を承知で社長を務めるダイレクトメール発送業「キューピットワタナベ」(本社・東京都立川市)で雇用、その立ち直りを援助する「協力雇用主」となって20年がたつ。

 きっかけは、昭和62年の会社設立後まもなく、女性従業員から受けた「夫が出所者なのですが、自分がここで働いても大丈夫でしょうか」という相談だった。「家族も大変なんだ」と思い、平成元年、保護観察所で協力雇用主に登録。以来、おもに10−20代の男女出所者、その家族や恋人まで30人以上を雇ってきた。

 「うちはちゃんと仕事がみつかるまでのパイプ役。2、3カ月から長くても1年で“卒業”していく。家族が、お帰りなさいって受け入れ、一緒に何か仕事を探そうかという感じ。雇ったら最後まで(面倒見る)とか考えるとつらいけど、そういう気負いはないの」

 保護観察所などを通じて面接し、出所翌日から出社させる。

 「あの子たちは社会が受け入れてくれないんじゃないと心配している。実際に受け入れられないと再犯につながる。だから、ここで意外と大丈夫なんだ、と思わせるの」「犯した罪を許すわけじゃないけど、そこまで追いやった責任は周りにもある。まずは信じてあげること」

 世話をした一人、古賀一将さん(33)は中学時代から恐喝や暴走行為を繰り返し、保護観察がついて渡辺のもとへ。仕事をしながら定時制高校は卒業した。だが、元の道に戻りかけたとき、交通事故で右脚を切断。治療、リハビリをきっかけに奮起し、専門学校に通って柔道整復師、鍼灸(しんきゆう)師の資格を取得。今年7月、東京都国立市に鍼灸・整骨院を開業した。

 「3年前に結婚して、私たち夫婦がお仲人をしました。今年5月には子供も生まれてね。彼は“渡辺塾”一番の優等生です」と立ち直りぶりを喜ぶ。その古賀さんに渡辺評を聞くと−。

 「多少のことではビビらない。おっかない人たちや警察と何かあっても、すごい迫力で話をつけてくれる。適当なことを言うと、すぐに見透かされるから、今でも怖いっすよ」

 同様に立ち直って結婚し、子供を連れて遊びに来る卒業生も多いが、再犯に走ったケースも。そんなときは、「(自分の)力不足だったのかな…」と思いながら、従業員や長男で取締役事業部長を務める英憲さん(33)にも支えられ、手をさしのべ続けている。

 現在は、覚せい剤取締法違反で服役を終えたナイジェリア出身の男性(33)が働いている。

 仕事はダイレクトメールの封入や結束、梱包(こんぽう)などの簡単な機械操作。時給は800〜1000円。「お給料をもらうとすごく喜ぶの。刑務所の中の時給は安いから(笑)」。

 与えるだけではない。「会社が成長したのも、(出所者が)みんな根性あってがんばってくれるし、従業員も刺激されてやってくれたおかげ」と感謝を忘れない。そして、こうもつけくわえた。「出所者を雇うといっても、仕事がなければ雇えない。仕事をどんどん作らなきゃ」。

     ◇

 法務省によると、協力雇用主は今年4月1日現在、全国で7749人。業種は建設が約半数、製造、サービス、卸・小売りなど。不況で一般の雇用も厳しいが、出所者の就労支援は再犯を防ぎ、安全安心な社会づくりに欠かせない。(写真・文 三保谷浩輝)

【関連記事】
【仕事人】宮崎大輔、ハンドのメジャー化のため顔になる
【仕事人】七色の声を持つ声優・山寺宏一(48)
【仕事人】選挙プランナー・松田馨さん
【仕事人】選挙プランナー、松田馨さん(29) 表舞台に押し上げる挑戦
【仕事人】陸自特殊作戦群の初代群長

最終更新:9月6日12時30分

産経新聞

 

関連トピックス

主なニュースサイトで 刑務所と受刑者 の記事を読む

ブログパーツ

国内トピックス

nikkeiBPnet on Yahoo!ニュース