きょうの社説 2009年9月7日

◎難しくなる遺骨収集 官民一体で体制再構築を
 厚生労働省の「遺骨収集応急派遣」の一員として、羽咋市の坂本俊文さんがマーシャル 諸島ミレー島で4年ぶり7度目の遺骨収集に乗り出すことになった。島民から新たな手掛かりが寄せられたためだが、事情を知る島の古老は次第に少なくなり、坂本さんのような戦没者遺族と現地との情報のパイプは他の地域でも先細りしているのが現状である。

 遺骨収集の意義は日本へ遺骨を送還することによって、戦争の歴史も持ち帰ってきたこ とにある。歴史を風化させないためにも可能な限り事業を継続させたいが、旧日本兵や遺族の高齢化、現地の人々の世代交代などを考えれば、遺骨収集は時間との闘いでもある。在外公館や国際協力機構(JICA)、現地の日本人会などを含めた情報ネットワークを官民一体で再構築する時期にきている。NPOなど民間団体の力を生かす仕組みも検討する必要があろう。

 厚労省の戦没者遺骨収集事業は1952年に始まり、海外戦没者約240万人のうち、 約125万体分の遺骨が送還された。戦友会の情報などを基に進められてきたが、確度の高い情報は減り、近年は遺骨収集数も低迷している。

 金沢の部隊を含む3千人余りが戦死したミレー島での遺骨収集は、1971年に始まり 、石川県人を中心とする慰霊団が島民との交流で培った信頼関係に基づき、埋葬に関する情報が現地から寄せられてきた。計328柱が収骨されたが、それでも全体の1割程度に過ぎない。

 遺骨収集団を受け入れてきた現地の長老は相次いで亡くなり、ミレー島慰霊団も200 3年の15次で打ち切られた。今は坂本さん1人が情報提供者として厚労省の収集団に参加している。

 遺骨収集の新たな動きとしては、フィリピンで06年からNPO法人「空援隊」が参加 し、多数の遺骨を送還している。旧日本兵を特定する遺骨鑑定の在り方に課題を指摘する声があるものの、厚労省の従来のやり方に一石を投じている。遺骨収集に献身してきた旧日本兵や遺族の思いをつなぐためにも一般の人々も加えた仕組みづくりは今後の大きな課題である。

◎高齢化進む漁業者 就業支援策に工夫がいる
 県内の漁業就業者の減少と高齢化が進み、60歳以上が全体の6割近くを占めることが 、県の2008年漁業センサスで分かった。若い担い手の確保に一層力を入れなければならないことをあらためて迫る調査結果である。県は漁業に就くことを希望する人たちに知識や技術を教える研修会を開くなどしているが、雇用環境の変化で第一次産業への関心が高まっている時でもあり、漁業の就業支援策にさらに工夫を凝らしてもらいたい。

 漁業センサスは5年ごとに漁業経営の実態を調べたものである。昨年11月1日現在で まとめた08年センサス(速報)によると、石川の漁業就業者数は4020人で、前回調査より262人減少した。年齢別割合では60歳以上が前回の54%から57%に高まっており、うち65歳以上は42%である。

 自営の基幹的漁業従事者に限ってみると、60歳以上が75%(うち70歳以上が41 %)を占め、高齢化は一段と深刻な状況である。

 農水省が7月にまとめた「漁業の担い手確保に関する意識調査」では、担い手を確保・ 育成するための取り組みとして、資金面を含めた就業時の支援拡充を求める声が強い。このため、たとえば新規就業者のために通常の融資制度だけでなく、漁協が中古漁船のリース事業を行い、行政がそれを補助するところも目立つ。中古漁船の貸し付けは、新規就業の初期投資を軽減する一つの方法である。研修中の就業希望者に手厚い生活支援金を支給する例もある。

 農水省の意識調査では、漁業の魅力・やりがいとして「自分の努力、技術次第で収入を 増やせる」ことを一番に挙げる漁業者が多い半面、担い手不足の理由について「天候や魚価の変動の影響を受けやすく収入が不安定」と答える人が多いのも実情である。

 魚価と収入の安定は大きな政治課題であるが、漁業環境が厳しさを増すなか、県内漁業 のリーダー役となる「漁業士」の認定者が180人を超え、後継者育成や資源管理の地域活動を強めているのは心強い。こうした面の行政支援の強化も望みたい。