vol.174 皇室典範議論の行方B〜正当性を失った女系天皇容認論
しかし、皇室典範改定は秋篠宮妃(あきしののみやひ)殿下の御懐妊(ごかいにん)(妊娠すること)によって沙汰止みとなりました。
そのうえ、お生まれになったのが親王殿下でいらしたことから、この話題自体が憚られ、小泉総理の打ち上げた計画は完全に頓挫することになったのです。
有識者会議では、将来の展望を見据えた普遍的な皇室制度設計をするとの方針が繰り返し語られてきましたが、たった一人の皇族が御懐妊遊ばしただけで、議論を進めることができなくなってしまったのです。
有識者会議の答申はその程度の次元の低い内容だったと言わざるを得ず、決して普遍的に通用する内容でなかったことが露呈したことになります。
では、なぜ御懐妊の知らせとともに、皇室典範改定への動きが止まったのか。
それは、もし男のお子様が御誕生遊ばしたら、その方は歴史的にも法律的にも正統なる皇位の継承者となられるわけですから、有識者会議の答申は、その正統なる継承者を皇統から排除することになり、当然憚られるわけです。
したがって、一時は圧倒的支持を得た女系天皇論も、たった一夜にして「日本のタブー」に転落し、論の正当性は完全に失われたのです。
そしてお生まれになったのが男のお子様でいらしたことから、再び女系天皇論が唱えられることはなくなりました。
現在、秋篠若宮(あきしののわかみや)殿下は、皇太子殿下、秋篠宮殿下に次いで、第三位の皇位継承権をお持ちになる、正統なるご存在であらせられ、若宮を排除する理論は存在しません。
しかしながら、この期に及んで「愛子さま VS 悠仁さま」などという見出しを掲げ、東宮(とうぐう)姫宮(ひめみや)殿下と秋篠若宮殿下のいずれが将来天皇になられるか、然も決まっていないかのような特集を組む週刊誌もあります。
男系維持論と女系天皇容認論に別れて論争した、先の典範論争はすでに決着し、東宮姫宮殿下が即位遊ばす理屈は既にありません。
当時女系天皇論を支えた最大の理由は、お世継ぎがいらっしゃらないことであり、若宮がお生まれになった以上、女系天皇論はその意義を完全に失ったかです。
姫宮と若宮の対立軸を作り出して記事を構成する週刊誌の手法は余りに短絡的ではないでしょうか。
若宮殿下が将来天皇に即位遊ばしても、それは決して東宮姫宮殿下が敗北したというものではないはずです。
東宮姫宮殿下は、東宮殿下が即位遊ばした時点で皇女(天皇の娘)となられます。
現状の皇室典範では皇族女性は婚姻と共に皇籍を離脱することになっていますが、明治維新前でも、皇族以外の者と婚姻する皇族女性は、やはり皇籍を離脱することになっていました。
東宮姫宮殿下も、将来は御結婚と共に民間人となられる運命にあります。
では、皇女が皇籍を離脱して民間人となられたら、何の価値もないというのでしょうか。
否、民間に嫁がれた皇女には、歴史的に重要なお役割があることは余り語られていません。
それは伊勢の神宮の斎宮(さいぐう)です。
斎宮は神宮の大祭に当たり、天皇陛下の大玉串を奉る、極めて重要なお役割です。
歴史的に斎宮は、皇女がこれをお務めになることになっています。
特に昭和22年に改正憲法が公布されると、政教分離が厳しく解釈された結果、未婚の皇女(現職の皇族)から斎宮を出すことが困難になりました。
そこで白羽の矢が立ったのが、婚姻により皇籍を離脱した皇女だったのです。
現在、天皇陛下のお姉様に当たられる池田厚子(いけだ・あつこ)様が神宮の斎宮をお務めになっていらっしゃいます。
これは推測ですが、次の世代で斎宮をお務めになる可能性が高いのは、今上天皇の唯一の皇女でいらっしゃる黒田清子(くろだ・さやこ)様だと思われます。
すると、更にその次の世代で斎宮をお務めになるのは、東宮姫宮殿下と考えるのが自然でしょう。
「愛子様は女性だから天皇になれなくてかわいそう」などと言う人がいますが、それは大きな間違いだと指摘しなくてはいけません。
東宮姫宮殿下には、天皇ではなく、斎宮におなり頂くことを考えなくてはいけないからです。
皇室には「親王は天皇に、内親王は斎宮に」という伝統的慣習があり、皇女には皇女ならではのお役割があります。
皇室制度はただやみくもに二千年続いてきたわけではありません。
男系継承は皇室制度の基本原理の一つです。
基本原理を安易に変更してしまうと、いろいろな所に歪みが生じる可能性があります。
基本原理を変更するのではなく、その原理を守る方法を考えることを先にすべきでしょう。
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