広井氏は、本書にて日本におけるコミュニティの空間的範囲の問題をコミュニティの中心とは何か、またその原型とは何かといふ視点から持論を展開する。氏は「地域コミュニティの中心」=「地域における拠点的な意味を持ち、人々が気軽に集まりそこでさまざまなコミュニケーションや交流が生まれるような場所」と定義してゐる。とくに市場化・産業化以前の伝統社会にあって地域コミュニティで重要な働きをしてゐた神社や寺院の存在に着目してをり、氏がおこなった「地域コミュニティ政策に関するアンケート調査」の結果は、神社や寺院の底力を再確認させるものである。この調査によると、コミュニティの中心としてとくに重要な場所は何かといふ質問に対し、一位は学校、五位は神社や寺院といふ結果が出てをり、自治会館やコミュニティセンターといったある種公設ともいふべき施設よりも神社が高い順位となってゐる。この結果は三十年ほど前から地方自治行政の目玉として各地に設置されたコミュニティセンターが、結果的に地域コミュニティの拠点足り得てゐないことを示すものといへよう。戦後のコミュニティ政策が浸透してゐない事実を意識レベルで浮き彫りにする結果は、筆者にとってひじょうに興味深いものであった。 現代社会においては、社会のパーソナル化ともいはれる状況のなかで、都市部を中心にコミュニティそのものの在り方が問はれてゐる。自然環境や神社・寺院を再活用して、福祉やケアの場面に活用してはどうかといふ広井氏の問ひかけに、我々神社人は一体何ができ得るのか。筆者は広井氏の著書の多くを拝読してきたが、本書を読み、あらためて今後もその答へを考へ続けていきたいと思った次第である。 〈903円、筑摩書房刊、ブックス鎮守の杜取扱書籍〉 (神社本庁録事・藤本頼生)
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