衆院選は、民主が大勝利を収め、自民は壊滅的敗北を喫した。有権者の民意は? 民主による政権運営、自民と公明は今後どうなるのか。岩見隆夫・客員編集委員、松田喬和・論説委員、小菅洋人・政治部長の3人が語り合った。【まとめ・中山裕司、写真・武市公孝】
松田 衆院選の結果をどう見ていますか。
岩見 民主の勝因は、自民の敗因の中にある。岡田(克也・民主党幹事長)さんがテレビ番組で勝因を「自民が政権政党としてふさわしくなくなったから」と答えていた。随分消極的な言い方であるが、正しく正直だと思いますね。麻生(太郎首相)さんがなぜ負けたかは、自民党政権が長すぎたこともあるけれど、直接的には小泉構造改革になる。結束力のない政党になり、選挙地盤も崩れた。
小菅 同感です。やはり郵政選挙から4年間の自民の問題です。2人の首相が続けて1年で政権を投げ出す醜態を見せ、自民党内のたらい回しを容認していた有権者がもう限界と判断した。
松田 政権交代を可能にする条件は、一つは与党の大失政、もう一つは受け皿である野党の成長。野党の成長で言うと、小沢(一郎・民主党代表代行)さん辞任後の今年5月の代表選では、連合が反発する右派の前原(誠司・副代表)さんと保守票が逃げる左派の菅(直人・代表代行)さんが出馬せず、中道の2人の争いとなった。過去の代表選は学級委員長の選挙みたいに各自の主張だけだったが、少し大人の判断を下せるようになった。
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岩見 民主に国家目標的なビジョンは薄い。というか、何を考えているか分からない。鳩山(由紀夫代表)さんの友愛革命論は、中曽根(康弘元首相)さん流に言うと、依然としてソフトクリームみたいな感じ。
松田 鳩山さんは「ソフトクリームからアイスキャンディーになった。中に棒が入ったからだ」と釈明しているが、民主のマニフェストは、木を見て森を見ない、各論はあるが総論はない感じだ。
岩見 民主のマニフェストは非常に小沢さん的で、選挙対策のばらまきを露骨にやった。マニフェストの自縄自縛に陥るんじゃないか。
小菅 そうはいっても、両党のマニフェストを比べたら民主が勝る。候補者の新鮮さでみれば、世襲や平均年齢、女性という面で自民と民主はかなり差がある。
松田 組閣や党役員人事が始まった。鳩山さんのアイデアの国家戦略局の設置も遅れている。政権交代は初めての経験とはいえ、スムーズにいかないと国益に反する。小沢さんを幹事長にする人事が先行したことで、鳩山さんは小沢さんの反応を見て人事を決めざるをえない。
小菅 菅さんや岡田さんだと党内で反発が起きる問題も、鳩山さんは反発を吸収する柔らかさがある。首相としてはしかし、それだけでは心もとない。
岩見 お父さんの威一郎(元外相)さんもとらえどころがなかった。鳩山家のDNAじゃないか。未知数の部分が大きく、楽しみとは言える。最初の人事で鳩山さんの値打ちの半分は決まる。
小菅 人事のポイントは小沢さんと菅さんの処遇だった。偽装献金問題を抱える鳩山さんは臨時国会でいきなり正念場を迎える。小沢さんの幹事長起用は「両刃の剣」を承知のうえで、存在感を増した小沢さんへの依存を決断したのだと思う。
松田 小沢さんは選挙と党務、政治資金を一手に握ることで事実上、表と裏の二重権力になる恐れが強いね。
岩見 そうだね。
小菅 党内の結束は小沢さんの振る舞いにかかっている。担当は選挙対策と国会運営だけで、政策には口を出させないというわけにはいかない。仮に最も官僚から距離がある菅さんが官房長官に就けば、脱官僚を旗印に徹底的な統治機構の改革に取り組むだろう。小沢さんが後押しすれば改革は進むし、逆に官僚が小沢さんに駆け込む事態もあり得る。鳩山さん、小沢さん、菅さん、岡田さんの関係はハラハラものだが、改革の大義に結集してほしい。
松田 民主の閣僚経験者は小沢さんや渡部恒三さん、菅さんらに限られる。政権運営は非常に厳しいだろう。
岩見 その前に民主に言いたいのは、鳩山首相になった時、記者のぶら下がり会見を少なくするとか、マスコミ対応要領を配ったりしている。これでは政党は萎縮(いしゅく)する。開放的にやった方がいい。(自民党の前衆院議員)杉村太蔵君のような新人が出てきたら困ると言うが、別に困らないよ。素人集団の素人部分を隠してもしょうがない。あけすけにやることを期待したい。
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小菅 衆院選では最後に自民党のベテランが踏ん張った。古賀(誠元選対委員長)さん、大島(理森国対委員長)さん、二階(俊博経済産業相)さんらだ。後援会が強く、腕力のある人が残った点は自民にとっては不幸中の幸い。民主は4年後の衆院選で消費税の壁にぶち当たる。自民は次の衆院選まで踏ん張れば、再生の道はある。
岩見 ただね、(自民党が与党に戻った)94年の手口はもう通用しない。細川(護熙元首相)さんをスキャンダルで追い込み、社会党を抱き込んだやり方ね。鳩山政権を追及しながらも、国民との距離を縮める努力をしないと。小選挙区の得票率は民主47%、自民39%。8ポイント差だけ。数の面から見ても再生、復元の可能性がないわけじゃない。
松田 公明は太田(昭宏前代表)さん、北側(一雄前幹事長)さんが辞任し、参院の山口(那津男政調会長)さんが代表になるようだ。山口さんは少なくとも前任者より自民との距離を置くだろう。
岩見 民主と公明の連携説は今はない。しかし、民主と社民との連立がうまくいかなかった時、民主と公明の接近が現実味を帯びてくる。公明はそれまでじっとするんじゃないの。自民との関係ではフリーハンドを持ったと言っていい。逆に自民は、公明抜きで党を立て直すチャンスを得たと考えるべきだ。
小菅 焦点は来年の参院選。自民が勝てば、「ねじれ」が生じ大連立の可能性も。
岩見 民主が大勝ちしたから、政界再編が遠のいたことには必ずしもならない。
松田 小沢チルドレンは100人を超える。小沢さんが幹事長という絶大な権限を握った以上、民主、自民の2大政党が安全飛行に入れるとは限らないね。
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毎日新聞 2009年9月4日 東京夕刊