裁判員司法 被害者参加の波紋
《1》裁判官の態度に不信感
2月4日に東京地裁八王子支部(現立川支部)で開かれた交通死亡事故の初公判。「もっと手短に話してください」「それは質問ではなく意見です」。裁判官は、車にはねられ死亡した被害者の女性=当時(91)=の長男(67)に畳み掛けた。
那覇地裁で2月17日にあった交通死亡事故の初公判でも、遺族は裁判長から「意見ではなく質問をしてください」と指摘された。
▽実刑要求かなわず
どちらも求刑意見を述べたり、被告人質問したりできる被害者参加制度を利用した。
長男は「失礼だ。少し陳述させればいいという認識なのではないか」と裁判官の態度に怒りが収まらない。また「日常生活のままでは被告が自分を見つめ直すことはできない」と思い、実刑を望んだが、判決では執行猶予が付いた。「交通遺児の面倒を見させたり道路清掃させたり、社会奉仕の刑があればいいのに」と残念そうに語る。
神奈川県二宮町で起きた交通事故で息子が意識不明の重体となった女性(52)も裁判に参加し、弁護士を通じて被告に実刑を求めたが、執行猶予付きの判決だった。
「裁判官に『自分の子どもが被害者でも執行猶予で満足ですか』と聞きたかったが、検察官に止められた」と涙ぐむ。
こうした経験から「交通事故ですら、みんな自分の家族には起きないと思っている。裁判員制度が始まっても、裁判員は未経験のことをどの程度考えられるだろうか」とみている。
▽「スターではない」
一方、同様に被害者参加制度により、大阪地裁の公判に出廷した傷害事件被害者の橋野勝治さん(41)は「裁判では、被告の行為に見合った刑を公平に判断してくれればいい。被害者はスーパースターではないし、10を十五にして話してはいけない」と話す。
ただ警察署で「検察庁の方針で逮捕していない事件は後回し」と回答されたり、被告側の謝罪と賠償の申し出を拒むと、検察事務官から「先方の弁護士も忙しい」と言われたことなどから法曹(裁判官、検察官、弁護士)には不信感を持っている。
「裁判は法律家による茶番。それに裁判員が加わると、感情に支配された演劇になる」。橋野さんはそう考えている。
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裁判員制度が21日にスタートする。昨年12月から始まった被害者参加制度は経験者から不満の声が上がるなど、波紋を広げている。裁判に参加する難しさや被害者が参加した裁判員裁判はどうなるのかを探った。
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■被害者参加制度
被害者や遺族が当事者に近い形で裁判に参加する制度で、被害者支援の一環。殺人や強盗致傷、強姦(ごうかん)、自動車運転過失致死傷などの事件が対象。裁判員裁判の対象と重複する事件も多い。被害者側が検察官に申し出て裁判所が許可すれば適用される。被害者や遺族は法廷で検察官の隣に座り、求刑意見の陳述や被告人質問のほか、情状に関する証人尋問もできる。最高検によると、2008年12月の施行から今年1月末までに45件計70人の参加が許可された。
=2009/05/14付 西日本新聞朝刊=