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診療報酬の全体的な底上げを

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【第77回】小山信彌さん(日本病院団体協議会議長)

 11の病院団体でつくる日本病院団体協議会では、来年度の診療報酬改定に向けて入院基本料の増額などを主張している。議長の小山信彌さん(東邦大医療センター大森病院長)は、エビデンスや国民のコンセンサスを得た上で、急性期病院だけでなく開業医などへの評価を含めた診療報酬全体を底上げする必要があると考えている。(高崎慎也)

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■「慢性期病院のことも考えないといけない」

―来年度の診療報酬改定では、何がポイントになるとお考えでしょうか。

 日病協として厚生労働省に提出した要望書には、入院基本料の増額、看護基準の柔軟な運用などを盛り込みました。これらに関しては来年度だけでなく、大規模な見直しになるといわれる2012年度の診療報酬改定までを見据えて考えています。一般病院だけでなく、慢性期の病院などのことも考えないといけないと、動いているところです。

―厚労省は入院基本料自体の引き上げではなく、加算によって評価する考え方を示しています。
 一つの考え方として、そうなると思います。全体的な底上げには、われわれもエビデンスを積み上げなければならないと考えていますが、今すぐには無理です。そうなると、まずはプラス評価してほしい項目を挙げて、それに対して加算をする考え方が非常に効率的です。そういう意味では、厚労省はわたしたちと全く違った方向を向いているわけではないと思っています。

―厚労省側と考え方のギャップを感じる点はありますか。
 あまりありません。わたしが中医協の議論に加わるようになったのは05年ごろで、東邦大医療センター大森病院の病院長になってから。かつては中医協での議論がクローズだったので、診療報酬改定はベールに包まれていました。その時代のことはあまり知らなくて、開かれた中医協、開かれた厚労省の中で会合に参加していますので、ギャップは感じません。
 逆に感じるのは、DPCの普及に伴って、病院の経営がどれだけ大変なのか、厚労省には丸見えだということです。厚労省としても、診療報酬は抑えたいのでしょうが、病院をつぶすと大変なことになりますから、国の予算との兼ね合いの中で、いろいろ考えていると思います。
 われわれとしても厚労省としても、最大の目標は質の高い医療を効率よく提供すること。日本の医療の素晴らしいところは、「医療は金もうけではない」という認識の下に動いていることだと考えています。

■急性期、チーム医療の評価を

―来年度の診療報酬改定では、調整係数の段階廃止に伴うDPCの見直しも焦点になります。調整係数に代わる新たな機能評価係数の議論で、気になる点はありますか。
 急性期をどのように評価するのかが、はっきりしていない点です。例えば、新係数の候補に挙がっている「救急・小児救急医療の実施状況および救急における精神科医療への対応状況による評価」では、患者を診察した実数で評価するのか、全DPC対象患者に占める割合で評価するのか。普通の地域では割合を評価指標にしてもよいかもしれませんが、へき地の場合、来るか来ないか分からない患者を必死に待っている状況が大変なのですから、それを評価できるシステムをつくるべきです。その地域全体で救急患者が1か月に何人出て、そのうち何人がその医療機関を受診するのか。地域に占める割合の統計を取る必要があると思います。
 「救急患者」の定義もはっきりしていません。救急車で来た人だけが「救急患者」なのか、時間帯は夜だけなのか、予約がない場合はすべて「救急」なのか。今は、「救急車で来た人は救急患者と考えてまず間違いない」という方向で動いています。救急車で来ない人の人数を引いても、それほど大きな差はないというエビデンスがあります。実数ではなく、割合で評価すると不利になるのではないかと言う人もいますが、何かを指標にしなければならないとなると、そこではないでしょうか。

―これ以外に、どのようなことを機能評価係数で評価すべきだとお考えですか。
 「チーム医療」をもっと評価してほしいと考えています。中医協のDPC評価分科会でヒアリングしたところ、急性期医療に一生懸命取り組んでいる大規模病院には、薬剤師や管理栄養士が多いのです。
 薬剤師が病院で担う役割は、以前とは全く違っています。今では病棟全体の薬剤の管理もすれば、患者や医師、看護師の相談にも応じています。サテライトファーマシーをつくって救命や手術室に薬剤師を常駐させて、薬のコントロールなどをしている病院もあります。しかし、今は診療報酬としてはほとんど評価されていません。
 病棟に複数の薬剤師を配置して、患者が朝起きてから夜寝るまで、薬の管理はすべて薬剤師が行うというのがわたしの理想です。薬剤業務を看護師から外すレベルにまで持っていく必要があると思います。わたしたちの病院でも、薬剤師が常にモニタリングをしていて、「この薬を飲んでいると危ないのではないか」「血中濃度が高過ぎるので、血中濃度を測りましょう」などと、医師と相談しながら管理しています。一昔前なら「医者のやることに口を出すな」となっていましたが、時代は変わりました。
 整形外科では、管理栄養士がいると入院期間が全く違うといわれています。病棟にいなくてもよいので、病院全体の中でチームとして動いて、栄養面でアドバイスしてくれることが、非常に大事だと思います。厚労省には、病棟ごとのチーム医療と、病院全体として持っているチーム医療の両方を評価してほしいと思っています。日病協の要望書には、こうしたことも盛り込みました。厚労省からは、「チーム医療」が何なのか、病棟での作業工程などを含め具体的に示すよう宿題を出されているので、その答えを9月下旬までに出すよう、日病協の各団体にお願いしています。

■開業医を守るためにも

―民主党は、急性期病院の入院診療報酬を充実させる考えを示しています。

 そのためには、国民のコンセンサスが必要になるでしょう。今の日本の経済状況を考えて、本当に大幅アップが可能なのか。確かに国民の命や健康を守ることは重要ですが、例えば一気に1.2倍にするとなれば難しいと思います。5−10%のアップを第1段階とするのが妥当ではないでしょうか。その上で、最終的な目標を1.2倍に置いてもよいでしょう。ただし、診療報酬を上げるには、国民や患者さんに「その分のお金を払ってもいい。それだけ質の高い医療を受けている」と実感していただくことが必要です。いきなり2割アップといっても、誰も納得しないでしょう。患者負担が増すだけです。

―診療報酬の全体的な底上げには、国民のコンセンサスや、エビデンスの積み重ねが必要だというお話でした。それでも全体的な底上げは必要だとお考えですか。
 日本の医療を“地べた”で支えている医療機関がたくさんあります。いわゆる「ビルクリニック」には確かに問題がありますが、365日24時間、電話が掛かってくれば患者さんのところに駆け付けるような、一生懸命やっている開業医がたくさんいるのです。ここをつぶしてしまえば、日本の医療は本当に駄目になってしまいます。病院が良くて、開業医が悪いという構図ではないのです。
 診療報酬を部分的に加算したとしても、こうした開業医が対象から漏れたら、最終的にはつぶれてしまいます。開業医などを守るためにも、医療費の全体的な底上げが必要なのです。例えば、産科病院だけを手厚く評価しても、そこの患者さんが脳梗塞や盲腸になったりすれば、誰が診るのでしょう。小さくても総合的な診療を行っている医療機関が救急を担当して、その地域の医療を支えているのです。「お金がないから重点的に加算する」という考え方もあるでしょうが、医療現場全体が疲弊しているのですから、全体的な底上げは必要だと思います。


更新:2009/09/05 10:00   キャリアブレイン

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