『細胞夜話』 (さいぼうよばなし)
藤元宏和 編著
パレード (2008/9/1)
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『GEヘルスケアバイオサイエンス』の「メールマガジン」で連載されていたシリーズ だそうです。
ていうか、全文そのメールマガジンはオンラインで公開されていますね! 読めます。
細胞夜話:目次
第1話 Escherichia coli K-12株
第2話 Hela細胞 −− Henrietta Lacks と Lacks家の物語
第3話 ビールと発酵とSaccharomycec cervisiae
第4話 今、昆虫が熱い!
第5話 WI細胞 −− ヘイフリック限界(Hayflick Limit)発見の立役者
第6話 神経幹細胞 −− 神経細胞は有限か無限か
第7話 Escherichia coli B株 −− 誰も知らないその起源
第8話 ゲノムが減る? −− カイチュウ体細胞の染色質削減
第9話 母国語で書いてしまったばかりにーHelicobacter pylori
第10話 鼻をくすぐるよい話? −− 植物組織培養技術
第11話 LB培地の物語 −− 偶然と必然が生んだ培地
第11話 番外編 LBの塩濃度は0.5%か1.0%か
第12話 リン酸カルシウム法とHEK293細胞 −− 愛妻家の銅鉄実験
第13話 CHO細胞 −− 実験のかわいいオマケ?
第14話 ガは人気者? −− 昆虫細胞用培地の開発
第15話 最初は注目してもらえなかった? −− ハイブリドーマとモノクローナル抗体
第16話 遺伝子導入法小史
第17話 私はコレでテーマを変えました −− 3T3細胞
第18話 pombeはどんな味? −− Schizosaccharomyces pombe
第19話 そろそろ50歳だワン −− MDCK細胞
第20話 ゲノムなんてバラバラになっても平気です −− Deinococcus radiodurans
第21話 名称の迷走 −− ミトコンドリア
第22話 形質転換とともに歩んできました −− E.coli DH 株
第23話 SurkatやKurkatにはならなかった? −− Jurkat
第24話 ウイルスがクセモノ? −− アフリカミドリザル腎細胞
第25話 ネガティブな菌によるネガティブな反応 −− グラム染色
第26話 23年目のちゃぶ台返し −− 培養細胞のコンタミネーション
第27話 塩水と水道と長崎ちゃんぽん −− 食塩水を用いたごく初期の培養
第28話 腎臓でハッピー −− 組織培養の時代
第29話 pBR322のpとpUC19のpは別物? −− pBR322、pUCベクター
第30話 時間があれば捨てていました −− Drosophia melanogaster K株
第31話 最初に作ったのは本当にぺトリ? −− ペトリ皿(シャーレ)
おわりに 細胞夜話最終回にあたって 細胞夜話執筆者エッセイ
こんなにたっぷり公開されている。
... 以下つづき...
第4話 今、昆虫が熱い!
●分裂回数がスゴイ!
哺乳類の細胞は分裂の回数に限度があるが(ヘイフリック限界)、昆虫の細胞は、哺乳類の細胞とは違って癌化しなくてもフツーに無限増殖しちゃうのだ!
●培養温度がスゴイ!
昆虫の細胞は、20℃ぐらいの温度にしておくと、死なず増えずで現状維持してくれるので、数日くらい放置しても大丈夫!
関連リンク:

学会にお出かけして留守するときも、室温でほっておいてかまわない細胞株というのは、微妙にSFチックな妄想をかき立ててみたりして、まったりした旨み醸してますね。
第8話 ゲノムが減る? −− カイチュウ体細胞の染色質削減
染色体もしくはゲノムは、どんな生物でも全身同じってわけじゃない。
場合によっては、身体の各部で遺伝子が(エピジェネじゃなく)違っているということもありえる。
※ ex.
そういう事件性(?)もなく、普通に生物種としてあたりまえに遺伝子を変える仕様になっている生き物も存在するのだよというお話。
生まれてから死ぬまでに、ゲノムが減っちゃったりするんですね!
関連リンク:東邦大学理学部 分子・細胞遺伝学研究室
「地球上の生物にはこの種固有のゲノムを個体発生中に大規模に編集し直す、いわゆるゲノム再編成という大胆不敵な振る舞いを行う種が存在する。
その生物学的・遺伝学的意義は未だ不明である。
この謎に、世界で唯一、脊椎動物のメクラウナギの仲間を材料にして取り組んでいるのが本研究室である。」
第26話 23年目のちゃぶ台返し −− 培養細胞のコンタミネーション
これは細胞バンクさん系のお話ですね!
2008/03 バイオ研究の舞台裏:細胞バンクは縁の下の執事さん
2008/08 公開書簡:細胞バンクの中の人
2009/02 細胞バンク便り:細胞に間違いがないかチェックして!!
ずっとマジメに細胞で研究してきたのに、その細胞が「ニセモノだったのかい!」てなプチパニック。
そんな顛末に「ちゃぶ台返し」とタイトル打ってしまう細胞夜話の筆者がカワイイ。
そのほかそのほか、目次一覧のとおりにツウなトリビア満載だ。
だいたい全部で30本だから、一日一話で進めていくと、一カ月たっぷり楽しめるね。
書籍版のほうは、欄外に読者からのリアクションが併記されていて、これまたいい味出してます。
面白いことに、カバー装丁はこんな「サイエンティフィック」にクールなデザインになっているけれど、カバー下の表紙には、ほんのりあったかな童話風の装丁画がほどこされているのです。
この本は、狭くて深い業界のトリビアを「軽く読みやすく記す」という主旨であるので、親戚縁者や後続の若輩さん、はたまた我が子たちに、この世界の流れをかいま見せる材料としてお手軽な一冊かもしれない。んで、その
・研究室用
・我が家用
それぞれを想定した装丁を発注した結果が、この「表紙2種類」なのかもしれない。
・・・それだったら、カバー下のほんわかした表紙の絵も、邪険にせずに、きれいなカラー刷りにしておいて欲しかったかも。
ウェブ上で公開されている本書の内容に、キラリと光るモノをお感じになられた研究者さん、こちら一冊手元にいかがでしょうか。