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社説:視点 もっと「核の傘」を語ろう=論説委員・布施広

 毎年恒例の国連軍縮会議が新潟市で開かれた。国連軍縮部などの主催、外務省の協力で各国の政府関係者や研究者が集う会議は今年で21回目。テーマは「核兵器のない世界に向けた新しい決意と行動」である。オバマ米大統領のプラハ演説を踏まえているのは言うまでもない。

 3日間の会議では北朝鮮問題も討議された。印象に残った問答がある。ある発言者が6カ国協議などの行き詰まりに触れて「北朝鮮の核放棄を促すには圧力を強める必要がある。強めた場合のリスクを日本も覚悟すべきだ」と説いたのに対し、別の参加者が「それなら米国の『核の傘』から抜け出して北朝鮮と交渉するリスクも検討してはどうか」と反論したのである。

 若者が多い傍聴席から拍手がわいた。質疑の公式記録はないので私の記憶に基づく再現だが、後者はこう言いたいのだろう。米国の「核の傘」の下で核廃絶を訴え、北朝鮮の核放棄を求めても説得力がない。それは唯一の被爆国・日本の「矛盾」「ジレンマ」ではないかと。

 私は首をかしげた。日本が「核の傘」を返上しても、北朝鮮の核・ミサイル問題や拉致問題は解決しまい。オバマ大統領の「核なき世界」演説はもちろん歓迎する。だが、この演説の理想主義的なトーンのみが強調され、北朝鮮への非現実的な対応を是とする風潮を生んでいないか。そんな不安が胸をよぎった。

 交渉も対話も大事だが、北朝鮮が交渉に臨むのは、しばしば「時間稼ぎ」か「交渉では問題が解決しないことを示すため」であるのは過去の例が示している。もはや北朝鮮の核武装は避けがたいとの見方が米政府筋からも聞かれる中で、では北朝鮮を真剣な交渉に導くにはどうすればいいか、という深刻な問いを突き付けられているのだ。

 それに、長期的課題として世界の核廃絶を求めつつ、いま現在は「核の傘」によって国の安全を守ろうとするのは、次元の異なる問題である。広島、長崎に次ぐ第3の被爆を防ぐことを考えれば、決して矛盾でもジレンマでもないと私は思う。

 とはいえ「核の傘」の過大評価も危険だ。核による抑止効果を実感的に検証するのは難しいのに、北朝鮮の脅威が増すにつれて「核の傘」を万能視する空気が強まっているようだ。また、日本が核攻撃の危機に直面した時、米国がどう対応するのか、私たちはほとんど知らないし、日本政府が承知しているかどうかも疑問である。

 素朴な疑問を率直に語るべきだ。核廃絶についても、日本をめぐる核の危機についても。

毎日新聞 2009年9月6日 0時11分

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