きょうの社説 2009年9月6日

◎自治体の豪雨対策 「ゲリラ」に応じた危機管理を
 多数の犠牲者を出した今夏の西日本豪雨は、自治体の避難勧告のタイミングや避難誘導 の在り方にも多くの教訓を残した。被害予測が極めて困難なゲリラ豪雨は画一的な避難勧告では十分に対応できず、より踏み込んだ対策を自治体に迫っている。

 石川県は9月補正予算案に砂防ダムの機能強化や福祉施設の「避難支援ガイドライン」 策定などを盛り込み、富山県でも孤立集落を防ぐ対策づくりに乗り出したが、温暖化の影響でゲリラ豪雨は今後も増えると予想され、従来の発想を超えた新たな危機管理体制が求められている。

 西日本豪雨では一部の自治体で避難勧告を出すタイミングが遅れたことが指摘されたほ か、避難勧告を受けて逃げる途中に濁流に巻き込まれて亡くなるケースも相次いだ。すでに川や用水が氾濫した段階で逃げることの難しさ、とりわけ夜間の道路冠水は激しい濁流に足を取られやすい危険性が浮かび上がった。

 場合によっては自宅の2階で待機する方が安全だったとの専門家の指摘もある。ゲリラ 豪雨で問われた避難勧告などの在り方や自治体の判断の当否は、行政と住民の信頼関係にかかわる重要な問題である。

 国が整備を推進するハザードマップや防災マップにしても、ただ作成するだけでなく、 災害時の避難に本当に役立つかという視点からの点検が必要である。

 たとえば愛知県清須市では「逃げどきマップ」などを作成し、木造、鉄骨、階数などの 住居形態や立地環境などを細分化し、それに応じて避難すべきか自宅待機かの複数のパターンを例示している。一律的な防災マップでは住民の間で災害イメージが固定化する恐れもあり、万一の行動指針をきめ細かく示すことはゲリラ豪雨対策にとっては大事な視点である。

 災害対策は住民の自己責任に負う部分があるとしても、日ごろからの備えをどのように 住民に意識付けさせるか、啓発活動にも一層の工夫が求められる。弱点を克服する着実なハード整備とともに、減災を目指すソフト施策はますます重要になっている。

◎自民党の出直し 再生のかぎ握る総裁選び
 衆院選は国民の多くが「政権交代」に期待した結果だったとしても、自民党が崩壊しか ねない状況に追い込まれることまで望んだだろうか。次期総裁選や首相指名選挙をめぐる、この一週間の党内の混乱ぶりは分裂含みの様相を呈し、党再生の前途多難な道のりを思わせる。

 自民党が野党に転落した多数党による細川内閣時代と違い、今度は巨大な民主党を中心 とする政権である。当時と状況がまったく異なることを考えれば、ここは腰を据えて野党に徹し、党再生の真摯な取り組みを通してエネルギーを蓄え、次に備えるほかない。

 民主党の政権公約には今なお財源確保や外交・安保政策にあいまいさを残している。野 党となる自民党総裁には「選挙の顔」というより、与党の政策を理詰めで追及できる力量がまず求められるだろう。安倍、福田、麻生首相とリーダーがめまぐるしく交代したことも自民党離れを加速させた要因である。今の混迷した状況を産みの苦しみに変えられるかどうか。司令塔となる総裁選びは自民党再生の大きなかぎを握ることになる。

 自民党総裁選の日程は今月18日告示、28日投開票と決まったが、16日召集の特別 国会での首相指名選挙で麻生首相の名前を書くことへの反発が相次ぎ、「白紙」投票の可能性が出てきた。限られた時間のなかでは敗因分析も十分にできず、中途半端なかたちで総裁選を実施しても党内が納得できるリーダー選びは難しいかもしれない。後継総裁が特別国会に間に合わないのもやむを得まい。

 とはいえ、曲がりなりにも長期政権を担ってきたのが自民党である。政権運営の重みや 台所事情は十分に分かっているはずであり、次期政権に緊張感を与えるうえでもその役割は重い。「民主主義に一番大切なのは健全な野党の存在」という英国元首相サッチャー氏の言葉は、まさに今の自民党に当てはまる。

 自民党が「健全野党」に徹してこそ政権奪取の可能性も開けてくるだろう。党再生の力 強い一歩を踏み出すためにも総裁選びは極めて重要である。