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日本が変わる:前例なき税金回収

 ◇「すでに基金計上」…41道府県/見直し対象不明確、不安に拍車/民主をけん制「配慮信じている」

 民主党は政権公約(マニフェスト)に「地域主権の確立」を掲げている。しかし、皮肉なことに、民主党が政権樹立後にまず着手しそうなのは、麻生内閣が地方を通じて配ろうとした税金の回収だ。

 麻生内閣が5月に成立させた09年度補正予算のうち、民主党は独自政策の財源確保策として計46の基金4・3兆円を全面的に見直し、未執行分は国庫に召し上げる方針だ。ただし、毎日新聞の調べでは、東京、茨城、千葉、福井、滋賀、香川の6都県を除く計41道府県がすでに基金事業を予算化したり、9月の補正予算案に計上したりしている。このため、回収作業は地方を巻き込んだ大規模なものになる。

 46のうち14基金は都道府県、3基金は都道府県所管の公益法人が事業主体になっている。農水省は4日、交付決定額が75億円にとどまっていた森林整備加速化・林業再生基金(1238億円)について「駆け込み支出は望ましくない」と新規の交付凍結を決めた。これが早くも地方を混乱させている。

 岐阜県は政府の交付金を当て込んで6月議会で51億1486万円の基金を設立。7月に3度の説明会を開き、間伐材を固形燃料などに加工する事業の参加業者を募集したところ、8月末までに製材業者などから172件の申し込みがあった。同県林政課の生田直人課長補佐は「業者から『本当に事業に参加できるのか』との問い合わせが来ている」と地元の不安を代弁する。

 6月議会で10億円を計上した三重県森林・林業経営室の西村文男室長は、基金を見越して設備投資を計画している製材工場があるとして「急な方向転換で、企業の意欲をそぎたくない」と懸念する。山形県の大隅尚行・県森林課主幹は「凍結は頭の痛い知らせ。事業者にも寝耳に水だ」と、政権交代がもたらす衝撃を口にした。

 46のうち、民主党が「ムダづかいの恐れ」があるとマニフェストに名指しした基金は、緊急人材育成・就職支援(7000億円)と農地集積加速化事業(2979億円)の二つ。同党が他の基金の取り扱いを明示しなかったことが、自治体側の不安に拍車をかけている。

 5、6月の議会で、介護職員の処遇改善のための基金など8基金を補正予算に計上した徳島県は「経済対策や福祉関係の基金が多く、県民生活に不可欠。9月と11月の議会でも新たな基金を補正予算に計上したいが、状況が不透明だ」(財政課)と不安げな様子だ。

 静岡県は6月議会で地域自殺対策緊急強化基金から約2億4000万円を計上した。担当者は「9月10日からの自殺防止キャンペーンに合わせて新聞広告も出した。年間3万人も自殺する中、この基金も『緊急性がない』として見直し対象になるのだろうか」と新政権に疑問を投げかける。

 自治体側の動揺が全国的に広がる中、高知県の尾崎正直知事は2日の記者会見で「地方が必要と判断して執行しているものを途中で取り上げるのは、あまりにも乱暴だ。一定の配慮がされると信じている」と述べ、民主党をけん制した。

 成立済みの予算を地方から回収する作業はほとんど前例がないだけに、行政の手続きは混乱が避けられそうにない。地方への交付を決定したものの、未執行の分については、関係する都道府県議会が補正予算で基金分を減額補正して、国庫に自主返納する方式が考えられる。ただ、自治体が執行済みの分は回収困難とみられる。

 民主党幹部は「必要なものは残す」としているが、財源確保のためには基金の大幅な見直しが必要だ。ただ、事業内容を一つずつ精査するには時間がかかるため、その間に事業がさらに進んでしまう懸念も出ている。【白戸圭一】

毎日新聞 2009年9月6日 東京朝刊

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