世界がこんなにも色に満ちあふれ、柔らかなまばゆい光に祝福されていること ─ 人も動物も草木も互いの境界線を失って溶け合い、そこに差し込む光や流れる風までもが混ざり合う、環境と一体化した世界。高木の作品には「絵を見て幸せを感じる」という、きわめて素朴でストレートな感動を覚えます。 |
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| 《Wildlife /
journey》アクリル絵具、水彩色鉛筆、キャンバス 120.0 x 180.0 cm 2005 photo: MORIMIYA Hidefumi |
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この《Wildlife / journey》という作品。そこで私たちは、水たまりを飛び越え、森の奥へ歩みを進めようとしている鹿の一群を偶然見かけます。でも鹿たちに警戒心は感じられません。《Wildlife / go home》の猿も、とても無防備です。
高木の作品に描かれた人物や動物たちの視線は私たちを通り越しています。それはファインダー越しの「カメラ・アイ」で対象を見るようでもあり、また、あたかも自分が空気か風か、画面空間を漂う透明な存在になったかのような気持ちにもさせられるでしょう。
高木の絵画に特徴的なのは、輪郭の不在です。水彩用の白いキャンバスに鉛筆で軽く構図の当たりをつけ、色の配置を熟考した後、その箇所に水彩色鉛筆を削り落として溶かすか、顔料インクやアクリル絵具を霧吹きで溶かしながら刷毛で伸ばして描いていきます。そのまわりにウレタン樹脂や絵具などのインクで花を咲かせたり、細い線や小さな点には注射器を用いたりすることもあります。ですが、細部まで具体的に描かれるものはほとんどなく、描かれる対象の形体は、色のグラデーションと色面同士が接することによってのみ作られています。線による輪郭がないのです。
その危うげで手を触れたらとろけ落ちそうな流動感は、視点を留める楔(くさび)となる中心や、安定した構図の基盤となる、確固とした図と地が希薄であることに由来しています。「1回以上塗らない、のせない」という高木の制作に対する信条に基づき、色面の全てが一枚の薄いシートとしてひと続きになっているため、全てが均質なのです。
次の瞬間に、鹿たちは森の向こうにひらりと消えてしまうかもしれないし、地面から生えているように見える草木はそのまま地面に吸い込まれてしまうのかもしれません・・・。
《white surface》
アクリル絵具、水彩色鉛筆、キャンバス
72.7 x 72.7 cm
2005
photo: MORIMIYA Hidefumi
《Wildlife / go home》
アクリル絵具、水彩色鉛筆、キャンバス
100.0 x 100.0 cm
2005
photo: MORIMIYA Hidefumi
高木は、映像作家である高木正勝とのコラボレーションや、歌手のUAのミュージック・クリップにヴィデオ・アニメーション作品を提供するなど、映像方面においても活動を展開しています(本展の参考出品:『lightning』[2004] / 『the color of empty sky』[2005])。それは彼女の作品が西欧絵画の遠近法という伝統にのっとった奥行きではなく、水平・垂直方向に流れる平らな構図で描かれていること、さらに線による輪郭の不在、つまり色面をある場に固定する枠が存在しないことで画面空間が流動的になり、結果として時間を感じさせる、という2点からしても自然に考えられうる展開といえるでしょう。
こうして高木の作品を見てみると、高木自身も「カメラ・アイ」で絵画空間を見つめ、自身を媒介者として、広大な空間と時間の一部を、一瞬だけ画面に表出させている、というスタンスが考えられます。一つの画面で全てが完結するように決定づけ、世界を限定するのではなく、画面の外にある(かもしれない)世界への広がりを感じさせること。高木の絵画にあふれる光は、その外の世界からもたらされた反射ともいえます。
外へ、未来へと繋がる可能性について考えることは幸せです。人はその先にある未知の世界に対して、恐れもしますが希望を持つからです。高木の作品に感じる幸福感は、その外界からの視線がもたらす、可能性という希望なのではないでしょうか。
こうして高木の作品を見てみると、高木自身も「カメラ・アイ」で絵画空間を見つめ、自身を媒介者として、広大な空間と時間の一部を、一瞬だけ画面に表出させている、というスタンスが考えられます。一つの画面で全てが完結するように決定づけ、世界を限定するのではなく、画面の外にある(かもしれない)世界への広がりを感じさせること。高木の絵画にあふれる光は、その外の世界からもたらされた反射ともいえます。
外へ、未来へと繋がる可能性について考えることは幸せです。人はその先にある未知の世界に対して、恐れもしますが希望を持つからです。高木の作品に感じる幸福感は、その外界からの視線がもたらす、可能性という希望なのではないでしょうか。
| 高木紗恵子 TAKAGI Saeko | |
| 1980 | 京都府生まれ |
| 2000 | 「第5回昭和シェル石油現代美術賞」準グランプリ受賞 |
| 2002 | 京都市立芸術大学美術学部美術学科卒業 現在、 京都府在住 |
| 個展 | |
| 2001 | 「on」、工房イクコ、倉敷 |
| 2003 | 「something new」、gallery ROCKET、東京 |
| 2004 | 「ZERT in Okayama」、工房イクコ、倉敷 |
| 2005 | 「ZERT in Tokyo」、gallery
ROCKET、東京 「ZERT」、atm gallery、ニューヨーク |
| グループ展 | |
| 2000 | 「第5回昭和シェル石油現代美術展」、目黒区美術館、東京(カタログ) |
| 2002 | 「現代美術インディペンデントCASO展2002」、CASO、大阪 |
■インフォメーション
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2005.7.15[金]─ 9.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
| 開館時間が変わります 7月15日より東京オペラシティアートギャラリーの開館時間が以下のように変わります。 11:00 ─ 19:00(金・土は20:00まで、入場は閉館の30分前まで) |
休館日 :月曜日(祝日の場合翌火曜日)、8月7日[日](全館休館日)
入場料 :企画展「生誕100年記念 難波田龍起
─ その人と芸術 ─」の入場料に含まれます。
主催:(財)東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756