■狼になりたい - 第8回  ≪原画マン所沢さんVS演出田無さん≫

第8回  ≪原画マン所沢さんVS演出田無さん≫

カテゴリ : 
狼になりたい
執筆 : 
芦田豊雄 2009-3-29 20:19
 原画マン所沢さんは、うまいハズなのにダメな原画をギリギリで上げてくる人である。
 自分でも不満足な原画を提出しているため、いつもリテークの怯えがある。
 更に、技術者としてもうひとつの悩みがある。
 自分はじっくり仕事をすれば、周りをうならせる原画を描くことができる。
 若い頃の自分の原画はいつも注目されていた。
 しかし今は……。
 手抜きそのものが「身について」しまう(しまっている)のではないか。
 時間とお金に余裕があれば、いい仕事が出来る。
 だが、所沢さんより若い周りのスタッフには、昔の仕事なんて知らないし関係ない。
 今では「手抜きの所沢さん」で通っている。
 悲しくつらい話だ。
 だが、この所沢さんの手抜き仕事をチェックする側の演出と作画監督はどうだろうか。

 担当演出は田無さんである。
 今回は自らの絵コンテであり、演出も自らやることにした。
 (今はスケジュールと金銭的事情等により、自分のコンテでも他の人が演出をやるケースが多い)
 演出の田無さんは所沢さんの家庭事情など知る筈もない。
 田無さんは怒りを抑えながら、所沢さんの原画をチェックする。
 雑でなげやりな感じのタイムシート。
 記入漏れや誤記も多い。
 「自分でシートを見直せよな〜〜」
 絵の方も荒い。
 キャラクターは似てないし、頭身もおかしい。
 必要な原画を手抜きされている。
 本当はリテーク出しをして、所沢さんに突き返したい。
 いや、だめだ。明日はこれを撮影に送らなければならない。
 リテークを出しても、いつ上がって来るか、指示通り直してくれるかも判らない。
 所沢さんの上がりはいつもこうだ。
 リテーク期間がまったくない状態で原画を上げて来る。
 「確信犯だ」
 演出・田無さんによる所沢さんへの評価だ。
 「作監様、よろしくお願いします」
 こう書き加えて、作画監督に所沢さんの原画を送る。
 田無さんも忸怩たる思いである。
 足りない原画も追加し、キチンとした原画に仕上げ、キャラ修正のみを作監に委ねたい。
 この演出さんも、毎日、人間不信と睡眠不足のなか、暗い部屋で机に頭をつっこみ、ただひとり作業をする。
 「作監様よろしく」
 演出もまた一匹モグラなのだ。
 「自分は演出として手抜きをしている。将来が不安だ」
 他の会社のアップも迫っている。
 もう26時間寝てない。
 田無さんは40歳で、主な仕事は原画作業の素となる絵コンテを描くことである。
 ギャラは1本手取りで20万から23万程。
 私、芦田の場合だが、あるレベルの絵コンテを完成させるまで3〜4週かかる。
 田無さんは私より早く(苦笑)3週で完成させる。
 絵コンテ料は20〜23万の中間をとって、215000円としよう。
 演出の方は、以前、納品まで2ヶ月程かかっていたが、今はスケジュール逼迫のため、作画打ち合わせから6週くらいか。
 その分過酷な作業になるが。
 絵コンテを描いている間は集中が必要であるため、他の作業は出来ない。
 更に演出の6週も、後ろの方を除いては他の並行作業はほとんど無理である。
 だがコンテは最速で3週。演出は納品まで6週であるが、ラストの1週は他の作業も可能である。
 月収245700円。
 やはり28日、1日13時間働いたとして、時給換算675円。
 当然もっと、スピードUPして収入の多い人もいるだろう。
 しかしこれも、不測の病気やイベントを除いての話である。
 まだまだ甘い数字と言わざるを得ない。
 この数字を見ると、演出作業は若手に任せて、絵コンテのみに集中する人達が多くなるのは当然だろう。
 実は田無さんも他社の仕事を抱えている。理由は所沢さんと同じ様なものだ。

 「作監様よろしく」
 いつものフレーズを書きながら、田無さんは徹夜明けのまま海に行き、同じくスキーに出かけ、死んでしまった仲間のことを思い出す。
 自分ももう26時間寝てない。

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