■狼になりたい - 第12回  ≪ムカツキの連鎖・2≫

第12回  ≪ムカツキの連鎖・2≫

カテゴリ : 
狼になりたい
執筆 : 
芦田豊雄 2009-3-29 20:22
 業界では、知識と技術が混同されて使われている。
 例えば、動画4枚を使った「走り」には“着地”“縮み”“伸び”“着地”を使う。これは知識である。(うまく描く作業は技術だが)
 三角形の面積の求め方が知識である様に、透視図法も知識なのだ。
 故に、近所の八百屋のオジさんでも理解可能なモノなのである。
 透視図法は「経験」とか「感覚」とはカンケイない。
 透視図法は絵をフクザツにする為のものではなく、絵の描き方を楽にし、自分に確信が持て、そして多数のスタッフが情報を共有する為の方法なのである。
 先に書いた様に、透視図法の混乱は、スタッフ同士の不信を生み、進行さんをムダに走らせ、アニメーターを更に貧乏に追い込み、人材を流出させ、スケジュールとお金を浪費し、多くの「ムカツキ」を生んでいるのである。

 私自身、無知のカタマリだ。
 先輩、後輩に限らず、教えて戴きたいことは山ほどある。
 JAniCAにおける業界横断の勉強会。
 10代でも70代でも、講師や生徒の立場になり参加してほしい。
 講師や私達をからかいに来るのも楽しいだろう。

 話を作カンの清瀬さんに戻そう。
 彼は真夜中、演出の田無さんから回って来た「演出OKレイアウト」をチェック中である。
 そして現在、作画の新人君と演出田無さん、進行の井荻君の間を何往復もした“騙し絵”をチェックしている。
 「なんじゃこりゃ」
 清瀬さんは、延べ一週間を費やした、手取り3500円の「往復の結晶」をホチキスで止め、「まったく新しいレイアウト」に描き直す。
 「この新人君もパースを知らねぇんだな」
 知らネェんじゃなく、ツブされたのだ。
 しかし新人君は、すっかり自信を無くし「ボクがダメだからだ」と自分を責め、「これじゃ食えないし辞めるなら早い方がいいかな」と、すっかり逃げ腰になっている。
 今回はたまたま、パースを不勉強な演出を例にとったが、作画も又、専門学校等に行きながら!教育されていない人達がたくさん居るのだ。

 今日も演出の人達は寝る時間もなく、「とにかく上げなければいけない」という切羽詰まった状態の中で、モグラをやっているだろう。
 たまたまコレを読んでしまった演出のヒトは、「勉強しようかな」よりも「芦田め〜〜〜」と思っちゃった人の方が多いに違いない(苦笑)。
 毎日に余裕が無いのだからしょうが無い。

 作カンの清瀬さんは、たくさんの「監ヨロ原画」をなんとかカタチにして、寝に帰ったのは翌日の20時であった。
 彼は、演出の田無さんにムカツキと同時にアキラメを持っている。
 「もう一緒にやらないからいいや」
 原画の所沢さんは、コンテ・演出の田無さんにムカツイている。
 今回のコンテは田無さんで、330cutもある。
 TVシリーズでは280cutがフツーである。
 1話分の原画予算は決まっている。
 割り算になるため、カット数が増える程、1カットの原画単価が下がってしまう場合が多いのだ。
 下がった分、多くの原画をやらないと収入は確保出来ない。
 カット数が増えたからと言って、中味が薄くなるわけではないのだ。
 もちろん、280cutを越えてしまっても、1カットの値段を確保してくれる会社もある。
 しかし、中には450cutなどとフザけたコンテが横行する場合もあり、その分の負担が会社にかぶさってくる訳である。
 原画の所沢さんは、田無コンテの「騙し絵満載のヘッタクソなコンテ絵と、自信満々の悪筆文字」にまでムカツキを覚え、「田無レベルで俺の原画に色々言ってくるなんて500年早ェ」し、「コイツとはもう仕事したくネェ」と思ったりしている。
 しかし「いつか切ってやる」と「コイツとはもう仕事をしたくネェ」は、又、2ケ月後くらいに“フツー”に打ち合わせをしたりしているのだった(笑)。
 人もスケジュールも足りないのだから、しょうがないのである。

 さて、コンテ、演出、原画、作画監督等のあいだを、働き蟻の様に走り回る進行の井荻君の話である。
 井荻君は一年間、別業種のサラリーマンを経た後、よせばいいのにこの業界に入ってしまった。
 アニメは大好きだし、この世界で仕事に関わることが子供の頃からの夢だったのである。
 しかし彼はたった一年で、
 「こいつ等はウソばかりついている。本当に信用できない連中だ」
 「元々、人間として欠陥があるのではないか」
 なんて「ヒドイ」ことを考える様になってしまった(笑)。
 毎回、何度も「騙される」のだからしょうがない。
 アニメーター達、全員に“ムカツキ”通しである。
 井荻君はこの話数の「シナリオ、コンテ打ち合わせ」から参加していて、今回の絵コンテ担当は田無さんということになった。
 絵コンテUPは、この日から3週間後の約束であり、井荻君はそれに備え、原画マン、作監、仕上げ等、各パートのスタンバイ準備にあたる。
 しかし、約束の日に上がって来た絵コンテは「半分だけ」で、しかも「秒数が入ってない(笑)」モノであった。
 いや(笑)どころじゃない。
 もちろん、田無さんには何度も確認の電話もしているし、答えはいつも、
 「大丈夫。上がるよ」だったのだ。
 そう言われると「判りました。頑張って下さい」しか言い様が無いのである。
 そして「遅れ」が明白になった時、井荻君は制作デスクから管理能力を「激しく糾弾!」されたかと言うとそうじゃない。
 「ああ、やっぱし」が、先輩達の感想であり、「キューダン」などに時間を割いてる場合じゃないのだ。
 実は田無さんが、本格的にこのコンテに入ったのは8日前であり、その前の13日間は他社作品のコンテをやっていたのである。
 実は私も最近「ネウロ6話」のコンテをやらせていただき、「同じ様なコト」をしてしまった。皆さん、ゴメンなさい!!(平伏)

 原画も作カンも同じ様に、他作品に関わっていると、それが終るまでは新しい仕事に入れない。
 新シリーズに入る時には、すでにスケジュールが破綻しているケースが業界にはいくらでもあるのだ。
 しかし、何故こうなってしまったのであろうか!!

 実は、この混乱は我々アニメーター達が作ってしまったのではないか!!?

トラックバック

トラックバックpingアドレス http://www.janica.jp/club/modules/wolf/tb.php/12