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きょうの社説 2009年9月5日
◎性犯罪裁判 被害者保護の努力さらに
裁判員裁判では初の性犯罪審理となった青森地裁の強盗強姦事件で、被告に求刑通り懲
役15年の判決が言い渡されたのは、性犯罪に対する厳しい「市民感覚」の表れといえる。弁護側は被告の恵まれない成育環境など情状面を強調して「懲役5年」を主張したが、出廷した被害者2人の悲痛な訴えや処罰感情が判決に影響したとみられ、これまでプロが判断してきた性犯罪の「量刑相場」が変わる可能性をうかがわせた。被告が起訴内容を認め、刑の重さが焦点となったが、被告が事実関係を争うケースでは 犯罪の立証がより細部にわたり、被害者に耐え難い精神的な苦痛を与える恐れもある。「分かりやすさ」という制度の原則と被害者保護の兼ね合いは今後も大きな課題である。 性犯罪は裁判員裁判の2割を占めるとされ、石川県内でも既に起訴された4件のうち2 件が強制わいせつ致傷と強盗強姦事件である。今回の「青森方式」は金沢、富山地裁での公判でも参考になろうが、性犯罪の審理はいまだ手探り状態といえ、個別の事例に即した被害者保護の努力と運用の工夫がさらに求められよう。 青森地裁では裁判員選任手続きで被害者とかかわりがあるような候補者を除き、被害者 の意見陳述は別室からのビデオリンク方式で行うなど細かい配慮がみられた。だが、性犯罪を裁判員裁判の対象にすることには反対論が根強く、被害者の選択制にすべきとの意見もある。青森地裁では検察側が悪質さを立証しようとするあまり、被害状況の説明が詳しすぎたとか、性犯罪は性差で受け止め方が異なるとして裁判員の男女比を考慮すべきとの指摘があった。初の裁判を通して課題の多さも浮き彫りになったといえる。 地域の住民が地域の被告を裁くという側面が強くなる地方においては、選任手続きや被 害情報の取り扱いは都会以上に慎重さが要求される。誰にも知られたくない被害状況が表に出れば二次被害につながり、女性が被害申告をためらうことにもつながりかねない。性犯罪審理は裁判員制度定着の大きなかぎを握っており、石川、富山県の法曹関係者も他の事例を十分検証して準備を整えてほしい。
◎円高・株安じわり 「政権交代リスク」意識か
景気の持ち直しで活発化していた外国人投資家の「日本買い」が止まった。民主党政権
の誕生で改革への期待感が高まる一方、肝心の経済政策の中身がどうなるかはっきりしないために、日本経済の先行きが予測しづらくなってきたのが原因という。民主党幹部から、対米戦略の見直しや円高容認の発言が相次いでいることも外国人投資家の疑心暗鬼を生む要因との指摘もある。東京市場はじわじわと円高・株安が進み、4日の東京市場は、米株高を受けてアジア株 が総じて堅調だったにもかかわらず、日経平均株価は3日続落した。市場では今後、円高ドル安がさらに進むとの見方もくすぶり、「政権交代リスク」が意識され始めている。 4月から7月まで4カ月連続で買い越しを続けていた外国人投資家の「日本買い」に急 ブレーキがかかったのは、内需による景気回復を目指す民主党の政策への不安が背景にある。民主党の藤井裕久最高顧問が「日本は基本的には円高がよい」と述べるなど、民主党幹部は何度も円高容認と受け取れる発言を繰り返している。円高で輸入品が安くなれば、消費者にはプラスになるという発想からだ。 しかし、急激な円高は輸出企業の収益を直撃し、生産や雇用に悪影響を及ぼす。多くの 企業が健康体のときならともかく、「病み上がり」状態の今は、円高は景気を悪化させる要因となり、外国人投資家にとっては、日本株を買うリスクが高まることを意味する。 また、民主党の政策は、成長戦略に乏しく、規制緩和にも熱心ではないと受け止められ ている点も気がかりだ。日本の景気が二番底をつけるリスクが意識されてきたときに慌てぬよう、即効性のある景気対策を今のうちに考えておく必要があるのではないか。 為替や金利などに対する発言は政治家本人に市場を誘導する意識はなくとも、マーケッ トに影響を及ぼす場合がある。野党議員なら影響力はあまりなかっただろうが、政権与党が確実となった今では重みが違う。発言はくれぐれも慎重に、投機筋に付け入る隙を与えぬ配慮が必要になってくる。
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