要人の携帯電話利用には3つの危険がある/0116号
●政府要人の携帯電話は“傍受”されている
携帯電話は使う側から考えると非常に便利な通信手段であるが、情報社会に
おけるテロ攻撃という見地からはきわめて脆弱な通信インフラである――こう
いうのは、著名な軍事評論家の江畑謙介氏です。
携帯電話は電波を使うことによる移動の自由が身上ですが、江畑氏によると
電波にはいくつかの弱点があり、それによる携帯電話の問題点を3つ指摘して
いるのです。
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1.電波は傍受されやすい
2.現在位置が特定される
3.電波妨害を受けやすい
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第1の問題点は「電波は傍受されやすい」ことです。
外に電波を放出する以上、電波は傍受されやすいのです。一般生活において
も携帯電話や室内コードレスフォンの電波が傍受され、いたずらや個人攻撃に
悪用される問題点が多く発生しています。
そういう携帯電話を首相をはじめ政府の要人が使うことには大きな問題があ
るのです。元警察庁国際部長の大貫啓行・麗澤大学教授は電話傍受の危険性に
ついて次のように指摘しています。
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(携帯電話での)会話はすべて傍受されているはずで、当然、安全保障上の
問題はあります。だから福田首相は、米国をはじめ通信傍受能力を有してい
る先進情報諸国から首相官邸、携帯電話、自宅の電話などを傍受されている
という前提で行動しなければなりません。
――『週刊ポスト』/2008年7月18号より
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傍受を防ぐ方法がないわけではないと江畑氏はいいます。携帯電話に暗号化
装置を付けるとか、スクランブル機能といって別の信号を混ぜて発信する機能
を付ける方法があり、官邸にはそういう携帯電話が用意されています。
しかし、相手方の携帯電話にもその暗号を解読したり、スクランブルを解除
できる機能がなければならないので、特定の相手としか通信できないのです。
福田首相をはじめ政府要人はこれを嫌って、一般の携帯電話を使っているもの
と思われます。
●現在の位置を特定される危険
第2の問題点は「現在位置が特定される」ことです。
首相や政府の要人が携帯電話を使うことの危険性は、その要人が現在いる位
置が特定されてしまうことです。とくに首相や政府の要人にとって現在位置が
特定されると、戦争ではマイクロウェーブ兵器などによる攻撃を受ける可能性
もあり、安全保障上好ましいことではないのです。
どうして携帯電話を使うと現在位置がわかってしまうのかについて、江畑謙
介氏は、次のように説明しています。
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携帯電話のスイッチを入れると、しばらくして感度表示が出るが、あれは携
帯電話が一番近い中継局(通信基地局)との間で自動的に交信を行い、この
持ち主の(この番号の)電話が今ここに居るということを、電話中継局のコ
ンピュータに教えているのである。 ――江畑謙介著
『情報テロ/サイバースペースという戦場』より 日経BP社刊
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どのぐらいの精度で特定されるかは、通信基地局の密度によって異なってき
ます。最近では通信基地局の数が増加したことと、その精度が非常に向上して
いるので、かなり狭い範囲内に相手を特定できるのです。
それに加えて、首相や政府要人は、移動において秘書や警護の人が周りを取
り巻いていますが、それらの人の持つ携帯電話からでも容易に現在位置が特定
できるのです。江畑氏は要人の携帯電話使用の危険性については次のようにコ
メントしています。
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要人は常に自分の、あるいは自分の秘書、副官、ないしは常に行動を共にす
る人物が持つ携帯電話の番号を他に知られないようにせねばならないし、状
況が緊迫したような場合には、一般的な携帯電話の使用は止めて、特別な回
線を使った専用通信手段に限定する必要がある。 ――江畑謙介著
『情報テロ/サイバースペースという戦場』より 日経BP社刊
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第3の問題点は「電波妨害を受けやすい」ことです。
携帯電話は電波を使うがゆえに電波妨害に弱いのです。携帯電話の電波はき
わめて微弱なものであり、簡単にして低コストで妨害ができるのです。したが
って、特定の場所で携帯電話が使えないようにすることなどは容易なのです。
ということは、戦争を含めた緊急事態では携帯電話は真っ先に妨害されるこ
とを考えておくべきです。いずれにせよ、首相や政府要人は一般の携帯電話の
利用は控える見識を持つべきです。 以上