2009年08月31日
というわけで、ホラー映画の専門家でもなく、67年夏の伝説的テレビ放送を見ているわけでもなく、もちろんフィルム・コレクターでもない私が、「シエラデコブレの幽霊」のプリントを抱えて右往左往するに至った経緯を書いています。
アメリカから届いたその段ボール箱には、16mmフィルムが2巻入っていた。フィルム缶は薄紫色の金属缶で、中央のラベルには「The Haunted」の印字があり、それぞれ「Pt.1」「Pt.2」の判が捺されている。フィルムを少しだけ引き出してみると、2巻目のリーダーに「Villa di Stefano」と刻まれていた。
それを見てようやく緊張が解けたのをよく憶えている。「The Haunted」は「シエラデコブレの幽霊」のオリジナル題だし、「Villa di Stefano」はジョゼフ・ステファノの製作会社である。半信半疑のまま購入し、まったく別の作品だったら……と危惧していたわけだが、それがようやく75パーセントぐらいの確信に変わった瞬間だった。
とはいえ、困ったのは16mm映写機がないこと。一昔前のように、図書館や学校に常備されているという時代ではない。あったとしても素人が適当に映写して、プリントを痛めてしまったら一大事である。そこでレジュメを作り、興味をもってくれそうなビデオメーカー数社に売り込んで、内容確認を兼ねた試写を打診したのだが、はかばかしい返事は得られなかった。そして、そうやって手をこまねいているうちに、「シエラデコブレの幽霊」の生みの親であるジョゼフ・ステファノの訃報が伝えられたのである。2006年8月25日のこと、84歳だった。
その日、SFファン仲間の樫原辰郎さん(映画監督・脚本家)が、mixi日記でジョゼフ・ステファノの死を悼み、唯一の監督作である「シエラデコブレの幽霊」が見られない現状を嘆いていた。それを読んだ私はその場で樫原さんに電話して――
「あるんですよ」
「あるってなにが」
「だからその幽霊が」
「どこに」
「うちに」
という落語のようなやりとりの末、とにかくそれは映写してみなければ話にならないという結論になった。
ここからが樫原さんの大活躍で、あっという間に、脚本家の高橋洋さんを巻き込み、京橋の映画美学校の試写室を借りて、映写のお膳立てを整えてしまった。忘れもしない9月24日(ステファノの死の1ヶ月後)、日曜の午後の人影もまばらな都心の、古めかしいビルの地下の一室で、内々の試写が行われたのだった。
もしフィルムの中身が別物だったり、まともに見られない状態だったりしても、怒らないなら――という条件付きで、樫原さんと2人で友人知人に声をかけた結果、当日集まったのは25人ほど。われわれの世代に「シエラデコブレの幽霊」という作品の存在を教えてくれた書き手の一人である聖咲奇さんの応援を得たのも心強いことだった。
結果として、それは確かに「シエラデコブレの幽霊」だったし、40年前のプリントにしては驚くほど保存状態もよかった。われわれは地下上映会を堪能し、正式DVD化に向けてビデオメーカーに働きかけていくべく気勢を上げたのだった。(この項まだ続く)
投稿者 chisesoeno : 2009年08月31日 23:34
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://chisesoeno.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/50
コメント
リンクを貼らせて貰いました(トラバは出来ませんでした)!!
なにか不都合あればお知らせくださいませ。
( `・ω・´)ノヨロシクー
投稿者 johnnyA : 2009年09月01日 23:33
探偵ナイト見ました
DVD化を待ってます!!
投稿者 もん : 2009年09月05日 01:04