2009.09.04 Friday19:01
ソーシャルキャピタルの形成に融資を行う「信頼資本財団」
信頼資本財団
信頼資本財団というとても興味深い団体があるのを知りました。サイトによると今年の1月に一般財団法人として設立、9月1日に公益財団法人の認定が下り、一般財団法人から公益財団法人になった新しい法人のようです。役員陣を見ると存じ上げないのですが、なにやら錚々たるメンバーのよう。
信頼資本財団について|信頼資本財団について|信頼資本財団
1.融資事業 ※2009年秋開始予定
自然資本及び人的相互扶助を実現するためのネットワークなどの社会関係資本の向上につがなる社会的事業に対し無利子・無担保で融資を行い支援する事業
2.信頼資本蓄積事業
財団の事業に共感する社会起業家や融資事業を通して提供される社会的事業に関する知恵・知見や人的ネットワークを蓄積し、データベースとしてホームページ上で公開する事業。データベースを公開し、不特定多数の人がそこに蓄積された社会的事業に関する知恵・知見、人的ネットワークを活用できるようにすることで、拡大再生産的に社会的事業の創出・活性化を促すことを目的とする。
3.社会デザイン事業
新たな発想で社会的事業実施を望む自治体や顧客満足と社会満足を同時に獲得したい企業に企画提案し、持続的に運営出来るよう設計する事業
4.社会企業家育成事業
社会企業家同士の情報交換や経営・運営における諸問題に関する相談に応じる機会、場を提供し社会企業家の育成を図る事業
サイトによると事業内容は上記の4点で、そのうち2009年は以下の二つの事業を行うとのこと。
・社会企業家マップ
・信頼創出イベント
サイト見てておおおーーと思いました。理事長熊井氏や評議員の方々のコメントなどを読む限り、同意できるところが多いです。
役員・スタッフ紹介|信頼資本財団について|信頼資本財団
われわれはもう一度原点に立ち戻り、社会経済における信頼のネットワークを作り直す必要に迫られている。しかし、それを一挙に進めようとすれば、悪魔の忍び寄る場所をもつくってしまう。われわれは、まず「苗代」に種をまき、苗をしっかり育て守り、それをしかるべき場所に移植して大きく育ていくという段階的な方法をとる必要がある。
など、全くおっしゃるとおりだと思います。
信頼のネットワークというのは抽象的な概念ではなく、山岸俊男教授の言うところ(→いかにして「信頼」をベースにしたネットワークを形成するか)の、長期的コミットメント関係を形成することで社会的不確実性を低下させ相手を信頼する「安心」ではなく、社会的不確実性が高い状況下(つまり担保が無い、保証が無いなど)でも相手を信頼する方の「信頼」の形成であり、それは組織やコミュニティの枠を超えて個人間で繋がりあい、一定の結びつきや協力、協働を行うネットワークであろうと思います。
また、広井良典教授がその著書「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来 (ちくま新書)」で整理したコミュニティの分類で考えてみればより具体的で、詳しくは以前書いた記事を参照(→「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来」広井 良典 著)していただきたいのですが、ざっくり言うとコミュニティは生産のコミュニティと生活のコミュニティ、農村型コミュニティと都市型コミュニティ、空間(地域)コミュニティと時間(テーマ)コミュニティに大別され、日本の戦後は人々が東京、大阪など一部の都市に地方から流入していく過程で地域コミュニティが縮小し、かつて同一だった生産と生活のコミュニティを分離して会社などの生産コミュニティが肥大化する一方で生活コミュニティである家族は核家族化して縮小、その不均衡を無理やり繋いでいた最大の要因が経済成長で生産コミュニティに人生の大半を注いでいれば結果としてパイが拡大し豊かになるという循環があった。また、大都市化の過程で都市を中心に作られた生産コミュニティは農村型コミュニティの特徴である「"共同体に一体化する(ないし吸収される)個人"ともいうべき関係」を持ち同質性を前提として凝縮性を強く持っていた。広井教授は日本の都市化は"都市の中の農村"を作る過程だったと言う。
そういう人生の全てを注ぎ込んででも充分ペイする"経済成長"という接着剤がはがれつつある状況で今重要になっているのが
1)縮小化し続けてきた生活コミュニティと地域コミュニティを如何にして再構築するか?
2)ボンディングな閉鎖空間であることが多い会社という農村型コミュニティを緩やかなネットワークにしていくか
3)組織や共同体の枠を超えて"独立した個人と個人のつながり"である都市型コミュニティ=私的財型ソーシャル・キャピタルを形成するか
4)上記のような課題に取り組むために重要度を増すテーマコミュニティ(NPO、社会企業、ボランティア、組合、インターネットコミュニティetc.)をどのように活用し、活性化していくか
という四点じゃないかと思います。
そういう中でこの団体が行おうとしている融資事業、いわゆる極小規模の個人や非営利組織向けのマイクロファイナンスというのは、まず最優先で求められることの一つだなぁと思います。寄付市場が活性化する見込みが薄い日本では、なんらか資金力がある団体が資金調達の支援にチャレンジしていってもらわないとなかなか進めないんじゃないでしょうか。
ということで、今後に注目したい団体ですね。
僕自身なんらかこういうソーシャル・キャピタルの形成だとかコミュニティに関する問題になんらかの形でコミット出来ればとは思うのですが、さてどうしようか?という感じだったりします。さてさて。
関連エントリー
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・「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来」広井 良典 著
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・安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方
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・シリコンバレーと日本の違いはソーシャル・キャピタルの違い?
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