「有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)元年」と言われる2008年。
ポスト液晶とされるこの分野で、日本メーカーは覇権を握ろうと躍起だ。
だが、そこには各社が想定していなかった3つの壁が立ちはだかる。
ソニーは2007年に世界で初めて有機ELテレビの量産にこぎつけた
有機EL業界の将来性について、特許情報サービス会社のアイ・ピー・ビーが「IPB特許・技術調査レポート(有機EL)」と題する調査結果をまとめた。日本で出願された有機EL関連特許の競争力を分析したもので、その結果からは、「日の丸有機EL」の意外な現状が浮き彫りになっている。
「類似特許があるか」「他社が関心を寄せているか」「国際出願をしているか」などの観点から個別の特許を得点化し、その得点を出願企業別に示したのが下のグラフだ。最も高い総合得点を叩き出した企業は有機ELテレビ量産一番乗りのソニーではなく、セイコーエプソンだった。
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本調査はアイ・ピー・ビーの自動評価システムで特許を評価した。特許の出願、登録などの手続きを記録した公開情報などを基に、対象特許に対して出願人や他社などの行動も加味して個別に評価している。例えば出願人が起こす「早期審査請求」や「拒絶査定不服審判請求」などから特許を権利化しようという意欲の強さが分かり、「無効審判」があれば権利化を他社が阻む行動を起こすほどの価値がある技術と考えられる。特許情報は出願の1年半後に公開される。日経ビジネス掲載の企業別評価では公開情報で知り得る直近の動向を見るために、2001年から2005年までの4年間の出願特許を対象とした。レポートの問い合わせ先はこちら。
出願件数は断トツ。直近の公開情報がたどれる2001年からの4年間で、有機ELに関して国内出願された全特許の実に1割を超える1195件を1社で出願している。
技術力の高さは、最近発表した試作品を見ても分かる。2007年10月には8インチの有機ELディスプレーを開発。ディスプレーの明るさが半減するまでの寿命を、テレビとして使っても問題のない5万時間まで伸ばすことに成功している。車載用スピードメーターなども試作し、用途開発にも熱心だ。
目下、有機EL業界の関心事は、より技術的なハードルが高いとされている大型ディスプレーの開発。40インチクラスのディスプレーが実用化されれば、汎用品化した液晶テレビに代わって、有機ELテレビがテレビの主役に躍り出るとの期待がある。エプソンは当然、この分野でも量産化を最速で実現する企業の最有力候補と見られてきた。「有機ELに関する技術の中でも、特に大画面化に適した特許を多く保有している」(調査を担当したアイ・ピー・ビーの日比幹晴研究員)からだ。
エプソンはプリンターの技術を応用して、基板に有機ELの材料を吹きつける方式の特許を数多く持つ。10インチ前後の小型ディスプレーで使われている現行の方式に比べ、大画面の量産をする場合にはコスト面で有利な技術と言われている。事実、エプソンは2004年にはこれらの技術を活用して業界初の40インチフルカラー有機ELディスプレーの開発に成功し、当時、エプソンの幹部も「2007年の製品化を目指して開発を進める」と宣言していた。
最有力候補エプソンの“変心”
だが、既に2008年。その公約の時期は過ぎている。そして、セイコーエプソンの跡部光朗ディスプレイ開発本部長は日経ビジネスに対し、大画面の量産とはおよそ縁遠い見通しを口にした。
「将来はエプソンブランドのディスプレーも出したいが、まずは中小型のBtoB(業務用)製品で信頼性を高めていきたい。ニッチでいい。(花岡清二)社長からも、有機ELは焦らずに育てるように言われている」
大画面の量産に積極的でないと解釈できる発言だ。製品化宣言から3年余り。いったい何があったのか。
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