ボリビアバナナ 無肥料無農薬の国産バナナつくり
渡辺 臣
和歌山から沖縄へ 2万坪の山でバナナ
和歌山県で25年ほど野菜と四季折々の果樹を栽培しながら、本業のヨーガ修行と指導をしていました。2007年4月に沖縄県町に移住し、2万坪余の山でバナナ・パパイヤ等を栽培しています。
天然農法家の藤井平司氏の教えにしたがって、“作って食べるのが真人間”を実践すべく、日々過ごしています。
野菜を自給しても穀物を購入すると自給率は高くありませんが、穀物をバナナに置き換えれば自給率は高まります。さらに火食率も下げられるという思いで、50種類ほどのバナナ品種を露地栽培するバナナ・パライソ(天国)を構築し、周年栽培しています。モットーは、“作って食べるフルーツ生食”です。
ヨーガではミターハーラという食事上の教えがあります。清らかな食物を摂取する「清食」、適正な量を順守する「正食」、各自の本務に専念する「聖食」という“三つのせいしょく”です。
この教えを実践する上で私は藤井氏の天然農法に着目してきました。藤井氏は評価していませんでしたが、私はバナナに多大な価値を見い出し、バナナを無肥料無農薬無除草剤栽培するのがベストという結論に達しました。
腹持ちしておいしい品種
食用になるバナナは世界中で300種を超えるそうですが、私は腹持ちしておいしいバナナの栽培を念頭に置いていますので、珍しさから多品種栽培を続けるつもりはありません。
現在は50種類ほどの品種を維持していますが、自家用に大切にしているのは、キャベンディッシュ・ボリビア・北蕉・タイワン・島バナナ・マッサン・ブラジル等の品種です。
自家用なら以上の品種で間に合うのですが、加工用として三尺バナナも多めに栽培しています。三尺はおいしくないバナナの代表格に思われていますが、天然農法で栽培した三尺は充分においしいものです。
バナナは肥料食い?
三尺バナナの親子。母茎1本、子茎1本方式の栽培 沖縄ではバナナの栽培が盛んと思われているかもしれませんが、沖縄には「栽培者」の名に価する人は僅少です。
バナナのほとんどは放任栽培で、子株を丹念に掘り上げて移植する人はほとんどいません。数本から十数本が林立するのが常態で、1本当たりの収量も少なく品質もあまりよくありません。先祖の代からあったから放任しておき、台風被害がなければ7〜10月に換金のため出荷するというのが実情です。
バナナは肥料食いと主張する人もいますが、私はそう思いません。肥気がない原野で無肥料栽培していますが、キャベンディッシュでは1本から200本前後穫れ、施肥は無用と思っています。
深植えより土寄せ
苗は本島・離島各地から集めますが、沖縄のバイオ苗(メリクロン)はお奨めできません。収量も多くなく、子株もあまり出ませんので。
苗を入手したら穴を掘って植えますが、「穴は大きすぎず深すぎず」がベターです。バナナに限らず植物が自分で根を張っていくようにすべきで、深い穴を掘って強風での横揺れ対策にするなどは邪道です。穴を深く掘るより、折々の土寄せのほうが有効です。
バナナの茎葉から滴り落ちた雨水には「一人育ち」するための養分が含まれています。やや遠くにまで落ちた雨水を含む土と雑草を、なるべくバナナの根元近辺の周囲にツルハシ・鍬などで寄せていく作業が土寄せです。これを「緑の肥花」と呼んでいます。
沖縄の農業者に、雨上がりに「緑の肥花を土寄せする」から人為的施肥は無用と説明しても、理解してくれる人はいません。いろいろな農業者が見学に来ますが、無肥料無農薬栽培ですと告げて果樹山を案内しても、見事に成っているバナナやパパイヤを見た後の帰り際に聞かれるのは、「肥料は何を使っていますか?」なので、こちらもウンザリしています。
子株は1本だけに 親株は切断後、マルチに
マッサンバナナ バナナ栽培のキーポイントの一つは、親株と子株との関係です。
沖縄では数本から十数本が林立するジャングル風景が一般的ですが、私は子株の1本だけを残して次の親にし、残りの子株は掘り上げて移植します。
このことを説明すると沖縄の人達は不思議に思うようなので、沖縄での家督風習を引き合いに出し、長男の子株だけを残し、次男以下や姉妹の子株は他所に移すと言うと理解できるようです。沖縄で耳にする「花が咲かない・実がつかない」ことがあるのは、放任林立にも原因があると思われます。
バナナの収穫をしたら、その親株の仮茎を地際から切り倒します。大きい茎の場合は3つ〜4つに切断し、次の親株の周辺に置いて土に還します。バナナ圃場にとって、切り倒した茎葉が土を肥沃・健全に保つ最大の資材になります。
人がこれを有機農業と呼ぶのは構いませんが、葉や茎が個性を持っている「有機」から、個性を喪失して土に還る「無機」性が肝心な点です。「個我」を「無我」に帰すヨーガ修行の目的とも通じるので、私にとって天然農法とヨーガを一体にした“農あるヨーガ生活”は二事ではなく一事です。
国産バナナの木1本の潜在価値
日本で消費される大半は輸入バナナですが、安全・安心・おいしさの三拍子そろったバナナを食べたいのなら、ポストハーベストや防腐剤の問題のない国産バナナになります。
バナナを露地栽培できるのは小笠原諸島と南西諸島ですが、ハウスを持てるなら、本州などでもバナナを栽培収穫することはできます。
当方にも本州の方々からバナナ苗の注文が来るのですが、「なんとかバナナハート(バナナの花)を見てみたい」という切実な願いに接すると、本州でのバナナ栽培をもっとポピュラーにできないものかと思います。
バナナ1本から200本ほどの実を収穫すれば販売額は1万〜2万円。さらに子株は5〜6本は出ますので、苗1本を2000〜3000円で販売すると1万〜2万円弱。ですから、バナナの木1本の潜在価値は2万〜4万円ほどになります。
1万本も植え付けた場合の「取らぬ狸の皮算用」はお任せしますが、ジャンボ・ビッグなものになるでしょう。移住先の人気ナンバーワンは沖縄のようですが、のんびりするのもよし、自給バナナ栽培もよしかもしれません。
(バナナ・パライソ)
『果樹園芸大百科 熱帯特産果樹』 アセロラ,アボカド,グアバ,パイナップル,バナナ,パパイア,マンゴーなど。原産地、特徴、栽培の歴史、加工・貯蔵・出荷方法が詳しく分かり、調べ学習やレファレンスに最適。 [本を詳しく見る]
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