消費者行政を一元化する消費者庁が発足した。縦割り行政の弊害を排し、消費者本位の行政を確立するのが狙いだが、新政権を担う民主党は長官人事などを見直す構えを示しており、多難な船出となりそうだ。
ガス湯沸かし器事故や食品偽装事件などで、情報が共有されずに被害が拡大した反省が、消費者庁新設の出発点となった。経済産業など各省から出向した約200人でスタート。消費者行政に関する情報を集約し、各省に指導・勧告を行う権限を持つ。これまで規制法がなかった「すき間事案」にも対応する。
しかし、火種を抱えての始動と言わざるを得ない。民主党がこだわるのは初代長官人事だ。麻生内閣が決めた内田俊一・元内閣府事務次官の就任を「官僚主導の人事」として見直しを強く示唆している。また、庁舎施設となった民間ビルに関しても、年間8億円を超える高額賃料を理由に庁舎の移転も検討する構えだ。混乱が懸念される。
消費者庁のお目付け役となる有識者による監視機関・消費者委員会も設立されたが、初代委員長への就任が有力視されていた弁護士の住田裕子氏が発足直前に辞退するなど、委員候補者間の不協和音も目立った。
消費者庁サイドの準備不足も気掛かりだ。目玉事業の1つ、消費者の苦情・相談を受け付ける電話案内「消費者ホットライン」の完全稼働は年末にずれ込む見通し。消費者の最も身近な窓口となる消費生活センターと相談員の確保も地域によって差がある。体制整備が急務だ。
波乱含みのスタートとなったが、「司令塔」としての任務を機能させることが政権の責任である。生活者重視に軸足を置いた組織、運営を早く軌道に乗せ、暮らしの安全を守ることが何よりも大切だろう。