よそ者には難解極まりない方言を使う地域がある。沖縄がそうだし、裁判員裁判を実施中の青森も、その一つといって差し支えないだろう。津軽弁の「ほいどたかり」が「けち」を意味するなんて、讃岐人には想像もつかない。
それでも青森の人々には、ほかのどんな言葉よりもしっくりとくるに違いない。どんな田舎の子どもでも標準語が理解できるような時代だが、気の置けない仲間といる時に使うのは、今でも方言なのだろう。
だが青森地裁の評議の場でも津軽弁が飛び交うかというと、たぶんそうはならない。裁判員は人を裁いた経験などなく、相当に緊張している。その上、進行役の裁判官は転勤族だ。普通なら標準語を使ってしまう。
しかし望ましいのは、方言が飛び交う評議のように思う。微妙な意味合いや生々しさを伝えるのに、方言は優れている。何より方言が飛び交うということは、それだけ遠慮なく話し合えているということでもある。
もちろん裁判員の中には県外出身者もいるだろうから、ある程度の配慮は必要だが、全く使わないのはもったいない。会話にほんの少し交じるだけで場の空気を和らげ、議論を深めるのを助ける方言は、この制度で大いに役立つ。
まずは裁判官が方言を学び、拙くてもいいから方言で話しかけてもらえないだろうか。幸い讃岐弁は、沖縄や青森ほど難解ではない。懸命に讃岐弁を使おうとする「しょうらし」裁判官なら、それだけで裁判所に向かう足が少し軽くなる。