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鳩山新政権へ―未来に責任果たす財政を

 民主党が政権政党としての力量を試される最初の大関門はいうまでもなく補正予算の組み替え、そして来年度の予算編成である。

 まず注目されるのは、総選挙で訴えた歳出の改革だ。国の総予算207兆円から無駄を省いて9兆円をひねり出し、子ども手当などの財源にあてる。そう公約して期待を集めた以上、自民党政権ではできなかった無駄の刈り込みをとことん進めてほしい。

■公約実施は大局見て

 総選挙から5日。民主党は動き始めている。来年度予算の概算要求を白紙に戻す方針を示し、経済危機対策として執行が始まっている今年度補正予算も見直す構えで、岡田克也幹事長が「駆け込み執行しないように」と麻生政権にくぎを刺した。

 麻生政権がこの1年間に取り組んだ景気対策の事業費総額は130兆円。規模が優先されたため、不要不急の事業も少なくない。46を数える基金の4.4兆円や、国立メディア芸術総合センター(アニメの殿堂)などのハコモノが代表格だ。

 失業率が予想を超えて悪化している経済状況を考えても、より効果的で、将来につながる内容の景気対策が求められる。無駄な事業をやめ、適切な予算に組み替えるよう期待したい。

 とはいえ、民主党は予算執行に責任をもつ立場となる。現実に出来ることと無理なことを冷静に判断し、政権公約に盛った方針の修正を辞さない柔軟性も求められる。

 来年度予算の編成では、そうした大局的判断がとりわけ必要だ。

 今年度の予算は経済危機対策で補正後には空前の100兆円規模にまで膨らんだ。来年度にそれを圧縮すれば景気にはマイナスに働く。かといって予算規模を維持しようとすれば、国債の大量発行が避けられない。

 鳩山氏は国債発行について「(今年度の44兆円から)増やさない。当然減らす努力をしないといけない」と述べた。だが、景気の悪化で税収の大幅減が見込まれる以上、それもかなり難しくなりそうだ。

■財政改革の目標示せ

 民主党が政権公約に盛り込んだ政策の中には「大盤振る舞い」に過ぎるものも少なくない。鳩山政権はそれらを再考すべきである。

 たとえばガソリン税などの暫定税率廃止(年2.5兆円)や高速道路無料化(年1.3兆円)は、地球温暖化対策と矛盾する。これらの政策実現を焦って国庫に巨額のつけを回すことは民意に背くのではないか。

 一方、子ども手当や出産一時金に5.5兆円を投じる公約は少子化対策として価値がある。だがその実現には、民主党が掲げる所得税の配偶者控除や扶養控除の廃止だけでは足りない。

 不足する保育所の整備を組み込んでいくにも、恒久的な財源を確保する展望を示すことが不可欠だ。

 民主党は来年夏の参院選に向けて成果を示したいところだろう。だが、無駄の削減や特別会計の運用益などの「埋蔵金」を、別の事業に財源としてつぎ込めたとしても、それは一時的なつじつま合わせにすぎない。

 子ども手当に限らず、持続的な制度をつくるには恒久的な財源が必要だ。民主党が進めようとしている歳出改革だけでは不十分であり、歳入すなわち税制も含めた財政構造改革に本気で取り組まなくてはならない。

 そのためには、財政の司令塔となる「国家戦略局」や、新しい政府税制調査会が中心となって中長期的な財政再建目標を検討し、そこに至るロードマップを国民に示さねばならない。

 国と地方の借金は800兆円超で、国内総生産(GDP)の1.7倍にのぼる。主要国で最悪だ。

 政府が巨額の借金をしているのに、大量の国債が売れ、金利も低い。これは個人金融資産1400兆円が不況下で安全な運用先を求めた結果だが、世界経済が回復すれば大量の国債にいつまでも買い手がつく保証はない。

■消費税論議封じるな

 鳩山政権には、発足後に直面する政策課題に取り組みつつ日本のグランドデザインを描くことを求めたい。政府がどこまで国民の安全、安心を支えるのか。そのために社会保障をどう立て直すのか。どれほどの財源が必要で、国民の負担はどのくらいか。

 そういうものがあって、初めて財政健全化の目標が描ける。危機克服後の消費税率引き上げを軸とする増税が避けられないこともはっきりするだろう。こうした作業こそが子や孫に責任を負う政府の務めだ。

 自民党政権では予算編成も長期的な財政ビジョンづくりも官僚が中心だった。だが官僚主導では変化の激しい時代に大きな方向転換ができなかった。民主党が掲げた「脱・官僚依存」はそうした時代の要請に応えるものだ。

 これからは政治がたじろがずに負担増という厳しい選択肢を掲げ、国民に問いかけなくてはならない。

 政党が選挙向けのポピュリズム競争に陥り、財源を顧みない政策で後の世代に巨額の付け回しを続けるのでは国が立ちゆかなくなる。すでに納税者はそのことに気づいている。

 血税を国民生活の立て直しのために賢く使うとともに、未来への前進のためならいばらの道も避けないという覚悟が鳩山政権には要る。

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