日本が中長期的な経済成長を考えていく上で、日本人の創造力を生かせるコンテンツ産業は重要な役割を果たす。政府は2015年をメドにコンテンツ産業の規模を現在の14兆円弱から20兆円に引き上げる方針を打ち出しており、就業者数も200万人とそろばんを弾く。ただ、ゲームと並び、日本が圧倒的に強いとされたアニメは国内の少子高齢化などの影響で最近は低迷が続く。
今回の衆議院選挙前にも、政府が打ち出した「アニメの殿堂」が野党や国民から猛批判を浴びたばかり。アニメは年間の市場規模が2400億円程度と大きくないが、玩具や食品のキャラクター市場を含めれば巨大な市場に大きな貢献をしており、今後も日本のコンテンツ産業の柱にする必要がある。
中国やインドなど新興国も注力しており、今後は激しい世界競争に巻き込まれることになる。日本が本当の意味での「アニメの殿堂」を築いていくために何が必要なのか。アニメ制作会社の業界団体である日本動画協会の専務理事であり、かつて少女アニメ「キャンディ・キャンディ」を大ヒットさせた名プロデューサーである山口康男氏に聞いた。
―― 山口さんはアニメ業界を代表する論客です。政府にも厳しく業界の苦境ぶりなどを訴えてきました。今回の選挙では「アニメの殿堂」が争点の1つになりましたが、この問題についてどのように見ておられますか。
山口 本当に残念というか、悔しいというか。アニメ産業を政争の具にするようなことはあってはならないと思います。
日本のアニメ業界は世界で日本のイメージを引き上げ、大きな貢献をしてきました。それなのに、「アニメの殿堂を作る」ということが「無駄遣いの象徴」みたいに言われました。
別にアニメ業界が117億円をかけて、お台場に作ってくれと、お願いしたわけではありません。当時の野党の人たちから「母子加算を打ち切って、アニメの殿堂なんか作りやがって」と攻撃されましたよね。残念です。
「アニメの殿堂」のような施設は必要
―― そもそも「アニメの殿堂」のような施設は必要なのでしょうか。
山口 あれだけのお金をかけることはないと思いますが、必要でしょう。
山手線の中にあれば、外国人の観光客が来たら、簡単に立ち寄れます。日本のアニメをしっかり紹介できるような施設があってもいいと思う。アニメを重視している韓国には既にあります。“本家”である日本にもあってもおかしくないでしょう。
施設を作ったら、そこで日本のアニメの作品を保存したり、人材を育成したり、海外との連携を進めるための情報センターの機能も持たせる。日本はアニメ大国であり、海外からものすごく注目されています。
―― 自民党の敗北で、アニメの殿堂は難しくなりましたね。
山口 そうでしょう。これでつぶれれば、二度と作れないのではないでしょうか。
それもありますが、「アニメの殿堂なんて」という言い方はアニメ産業を低く見ている。それが残念なのです。アニメを作ってきた人間として、そういう発言はおかしいと思います。
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