衆院選で大勝した民主党による新政権がいよいよ誕生する。誰もが経験したことのない新政権下で、九州・山口の地域経済はどんな影響を受けるだろうか。それぞれの現場から探った。
「ビーンボールを投げられ、『打ってみろ!』と言われているようなものだ!」
7月末、福岡市のホテルで怒号が飛んだ。九州長距離フェリー協議会の定例会。ETC(自動料金収受システム)搭載車を対象とした上限1000円の高速道路料金割引制度に対し、不満や批判が噴出したのだ。旅客船業界はこれまで、国が推進するモーダルシフト(自家用車から公共交通機関の利用転換)に協力してきたという自負がある。それだけに、逆行する高速道路料金割引には「裏切られた」という思いが強い。
一般ドライバーへのメリットは大きいが、割引制度でフェリーの利用は激減し、各社の経営は大打撃を受けている。九州運輸局によると、九州発着の長距離フェリー(片道航路300キロ以上)の4~6月の客数、車両数はいずれも前年同期比22%の大幅減だ。
新政権を担う民主党は、「高速道路の原則無料化」を掲げている。フェリー各社にとって、現在の割引制度さえ大きな痛手なのに、原則無料化が導入されれば、「経営危機は避けられない」(業界関係者)との声は強い。長距離フェリーは全国に11航路あり、うち8航路は九州発着で、地域経済全体への影響の広がりも懸念される。
「高速道路無料化となれば、高速バスの年間負担は十数億円軽減される。ただ、それ以上に乗客が減る可能性が大きい」
西日本鉄道の竹島和幸社長は苦悶(くもん)の表情を浮かべた。同社の高速バスの利用者、収入は、ゴールデンウイーク、お盆期間中ともに、前年同期比12~18%減と2ケタのマイナスだ。同社は苦境を打開するため、9月の5連休中に、高速バス料金を最大38%値下げするとの苦肉の策を打ち出した。だが、需要が回復するかは不透明だ。
一方、高速バスの収入減を補うため、同社は今月中にも、一般路線バスの1~1・5%を減便する方針だ。「収益改善にはやむを得ない」ためだが、改善が進まなければ、一般路線バスの廃止も検討するという。しかも、「今回の減便は、現行の割引制度が前提。原則無料化が現実化すれば、対策を根本的に変えなければならない」(同社)という。原則無料化は、結果的に住民の足を奪いかねない状況だ。
同社幹部は「1000円高速も、原則無料化も政党の選挙対策だ。交通体系全体にどんな影響が及ぶのか全く検証されていない」と怒りをにじませる。【綿貫洋】
毎日新聞 2009年9月2日 西部朝刊