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民主、社民、国民新の3党が連立政権づくりに向けて協議を始めた。
衆院で「308」という巨大政党に膨れあがった民主党だが、参院での議席数は過半数に少し足りない。
社民党と国民新党を味方につけて過半数を固めれば、予算や法律をすんなりと成立させることができる。安定した政権運営のために連立を模索するのは当然のことだ。
ただ、あくまでも理念や政策の方向性が一致する限りで、というのが連立の大前提だ。ただの数合わせや、本来の主張を無節操に曲げるようなことでは、それぞれの党に票を投じた有権者の期待を裏切ることになる。
3党は16日の首相指名、新内閣発足に向けて、週内にも鳩山政権で目指す政策、理念で合意したいという。
政策合意の元になるのは、総選挙の時に3党が掲げた共通政策だ。だが、実際の連立政権を支える合意にするには、改めて議論し、細部を詰める必要がある。
例えば「消費税5%は据え置く」という項目だ。民主党は税率を引き上げる時は民意を問うという立場だから、この内閣が続く限りは引き上げないという点で、消費増税絶対反対の社民党と一致している。
それでも社会保障の財源確保や、景気対策でいっそう膨らむ借金をどう返済していくのか、財政健全化のめどをめぐる議論は必要だ。それまで封じるような合意にしてはなるまい。
国民新党が最重視する「郵政各社の株式売却凍結と4分社化の見直し」。当面はこれで手を握れるだろうが、では郵政民営化を後戻りさせるのか。将来像についての国民の疑問にすぐにも答えなければならないことを留意しておかねばならない。
難題は、共通政策に盛られなかった外交・安保政策の扱いだ。インド洋での給油支援やソマリア沖の海賊対策が焦点だが、自衛隊の海外派遣に強く反対する社民党とどのような形で折り合いをつけるか。鳩山首相の基本路線が問われる問題でもある。
民主党として決して譲ってはならない点が二つある。まず、企業・団体献金の全面禁止だ。国民新党が慎重だが、政権の根本姿勢にかかわることであり、玉虫色の合意は許されない。
もうひとつは、政権の意思決定は内閣のもとで一元的に行うという原則だ。社民、国民新両党が求める与党の連絡会議は、内閣の意思決定を妨げるものであってはならない。両党には、閣僚や副大臣として内閣に加わり、意思決定に参画する道がある。
鳩山氏には念を押しておきたい。この総選挙で示された民意が民主党政権に期待したもの、つまり有権者の負託に誠実に応えることがあくまでも基本である。
消費者行政の司令塔となるべき消費者庁と、その監視役を担う消費者委員会が一昨日、発足した。
それぞれに所管する業界の育成を第一としてきた中央官庁を串刺しにし、消費者保護の立場から一つにまとめる。後追いになりがちだった行政を改め、機動的に対応する。自治体の相談窓口と連携を強め、他省庁も動かす。そんな仕組みがスタートする。
消費者庁構想は、福田前首相が積極的に進めたものだ。今年の通常国会で政府案に民主党案を取り入れる形で修正され、全会一致で成立した。
ただ関連法が国会で成立してから、わずか3カ月での出発だ。準備不足は否めない。
総選挙を控えた時期に、麻生内閣が発足を急がせすぎた印象は強い。霞が関の風土を変えようとする組織のトップに、官僚OBを据えたことにも批判が出た。本来なら新政権のもとで長官人事を考えるべきだった。
消費者庁の様々な仕組みは、フル稼働にはほど遠い。全国共通の電話番号で最寄りの消費生活センターにつながるホットラインの開設は、間に合わなかった。公的機関がばらばらに扱ってきた事故情報を集約するデータバンクや、専門家が分析し要注意情報をあぶり出す「事故情報分析ネットワーク」も、まだ整っていない。
約200人からなる職員の多くは、ほかの役所から移ってきたばかり。出身組織のしがらみを振り払い、消費者保護の専門家集団として強力なチームワークを築くには時間も必要だろう。
一方、有識者からなる消費者委員会は、首相への勧告権限も持つ強力な組織になったが、委員人事をめぐる混乱もあり、こちらも機能や事務局体制は固まっていない。
せっかく器ができたのに、魂は半分も込められていないのが実情だ。
行政の目線を消費者に据え、縦割りの省益を打破することは、そもそも民主党の看板だ。消費者庁と消費者委員会がしっかり機能するかどうかは、鳩山新政権が進めようとする生活者重視や霞が関改革の試金石でもある。
16日にも発足する新政権は、消費者庁の態勢強化を最重要課題の一つとして急ぐべきだ。指導力のある担当大臣を置き、そのもとで新しい消費者行政を一刻も早く軌道に乗せなければならない。
官僚による行政の進め方をたださなければならない場面も、出てくるだろう。その中で必要と判断すれば長官人事の見直しも検討すればいい。
食品への有害物混入など、重大な消費者事故は、いつ起きてもおかしくない。政権移行や組織立ち上げの時期だからといって、情報収集に手間取ったり、被害拡大の防止が遅れたりすることがあってはならない。