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日本が変わる:高速道路無料化、民主案(その2止) 公平性に疑念も

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 <1面からつづく>

 ◇返済の原資、通行料から税金に

 民主党が高速道路の無料化公約に踏み込んだのは、(1)生活コスト・企業活動コストが下がる(2)地域間交流が活発になり経済が活性化する--などが主な理由だ。国土交通省の資料を引用して、無料化に伴う経済波及効果は、「最大で7・8兆円に上る」と主張している。

 現在の高速道路の枠組みは、旧日本道路公団などが民営化した05年10月に出来上がった。道路資産と過去の建設でかさんだ借金は独立行政法人の「日本高速道路保有・債務返済機構」が引き継ぎ、道路の維持・管理は民営化した六つの道路会社が担う「上下分離方式」だ。

 高速道路の料金収入は6社合計で年間約2兆3000億円(08年度)。このうち維持・管理費を除いた約1兆8000億円が、道路会社から機構に道路のリース料として支払われている。機構はこのリース料を借金(08年度末で約31兆円)の返済に充て、45年計画で2050年に完済する方式が採用された。

 これに対し、民主党は機構の借金を国に付け替えることで高速料金を段階的に無料にする方針。高速道路は国有になり、機構は廃止される。道路会社は統合した上で管理、建設などの機能ごとに分割する案を示している。料金収入がなくなるため、過去の借金は国が税金で支払うことになるが、45年を60年に延ばして年1・3兆円ずつ返済する。

 無料化スキームの策定にあたった民主党の馬淵澄夫衆院議員は「受益者負担の原則は土日1000円ですでに壊れている。無料化の経済効果で税収も増える」と主張する。高速道路を有効活用することで、むだな一般道を建設する必要もなくなるという。

 四方が丸く収まる「魔法の政策」のようにも見えるが、無料化への批判は根強い。8月31日のテレビ番組で、連立政権に参加する予定の福島瑞穂・社民党党首は、渋滞や二酸化炭素(CO2)排出量の増加を懸念した。民主党の岡田克也幹事長は「地方では(高速道路が)有料であるために、一般道が使われる。その方が効率が悪くて、ガソリンもたくさん消費している」と反論した。

 借金返済の原資が通行料から税に置き換わるため、高速道路を使わない人の負担は増える。道路会社幹部は、「首都高速、阪神高速が有料のままなら、料金の一部が地方の維持管理費に回る。首都高、阪高を使う人は納得するだろうか」と、公平性への疑念を指摘する。

 ◇JR輸送量減、一層渋滞の恐れ 「国民経済にロス」

 麻生政権下の「休日1000円」は5月の大型連休とお盆の大渋滞を招いた。無料化されれば一層渋滞が増す。早稲田大商学学術院の杉山雅洋教授は、無料化すると道路の需要がコントロールできなくなるとして「経済学者は無料化にくみしない人が圧倒的に多い」と話す。

 高速道路に乗客を奪われるフェリー業界では、選挙結果を受けて悲鳴が高まるばかりだ。神奈川県横須賀市と千葉県富津市を結ぶ東京湾フェリー(横須賀市)では「休日1000円」が始まった3月末以降、利用台数が前年同月比約3割減った。基本運賃は3880円だが、8月1日には川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインの通行料金が平日も含め普通車3000円から800円に引き下げられ、収益環境がさらに悪化した。

 同社の島崎敏行総務部長は「道路会社には値下げを国が補てんするが、海の道路のフェリーには何も支援がない」と憤慨する。日本旅客船協会によると、3月以降、瀬戸内海で就航しているフェリー3社の3航路が廃止されたという。

 JR各社の輸送量も3月の高速値下げ後、前年同期比で1割減になり、急速に悪化している。8月31日に就任したJR西日本の佐々木隆之社長は記者会見で「高速道路を無料化すれば、交通機関別のシェアが変わり、国民経済的に大きなロスだ」と問題点を突いた。

 無料化への流れは意外な余波も生んでいる。ETC(自動料金収受システム)人気に変化の兆しが見えてきたのだ。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると、「休日1000円」の効果で今年1~7月のETC車載器の国内出荷数は前年同期の約2倍。現在も三菱電機など車載器メーカーは「フル生産」状態だ。ところが、埼玉県内のトヨタ自動車系ディーラーの営業担当者は「お盆明け以降、問い合わせがなくなった。『民主党政権で無料化になるなら取り付けても仕方がない』という声を聞く」と語る。

 「無料化したら二度と戻せない」(国交省幹部)だけに、無料化が日本の交通体系に与える影響は甚大だ。「国有化するなら、民営化の時の民営化委員会のように、有識者を集めた『国有化委員会』ができるんじゃないか。議論は何年もかかるだろう」と道路会社幹部の一人は予想する。【位川一郎、谷川貴史、石原聖、大場伸也】

毎日新聞 2009年9月3日 東京朝刊

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