きょうの社説 2009年9月3日

◎3党連立協議 外交・安保に踏み込めるか
 民主党が社民、国民新両党との間で始めた連立協議の注目点は、国民に対して、目指す 国家像をどこまで具体的に示せるかという点にある。特に社民党とは、外交・安保政策で「水と油」ほどの違いがあり、妥協点を探るのは容易ではなかろう。現実的な選択肢として、対立が確実な問題については、当面は玉虫色にしておくほかなさそうだが、308議席を獲得した民主党が少数政党の意見に制約され、新しい国のかたちをぼんやりとしか描けないとするなら、残念というほかない。

 民主党は、参院で過半数に達していないため、国会運営をスムーズにするために3党連 立を必要としている。社民、国民新の両党は埋没を避ける思惑が背景にある。まずは連携を重視し、時間をかけて対立点の解消に努めていくことも一つの知恵とはいえ、外交政策などであいまいな態度をとり続ければ、他国に誤解され、国益を損なう場合もあり得る。外交・安保政策での合意形成にどこまで踏み込めるかが、連立協議の試金石となるだろう。

 民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた「緊密で対等な日米関係」について、米国 の主要紙や知日派と呼ばれる米議会関係者は、米政府の懸念を伝えている。社民党は日米同盟に否定的で、小沢一郎代表代行は国連中心主義とされているから、同盟の弱体化につながるのではないかとの指摘である。

 民主党がこれまで主張してきたインド洋での海上自衛隊による給油活動への反対や沖縄 の普天間基地の県外移設、日米地位協定の見直しなどが、次期政権でも引き継がれるのかどうか、大いに気になる。鳩山由紀夫代表が、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)などに寄稿した論文には「東アジア共同体」創設を提唱するなど、米国との同盟からアジアに軸足を移す外交を志向しているかのような主張もある。

 だが、外交には継続性が必要であり、政権与党は「現実路線」を選択せざるを得ない。 東アジア共同体のような夢を語る前に、次期政権で現実の外交・安保政策をどう構築するか、国民にきちんと説明できるようにしてほしい。

◎体験型の景観学習 地域に広げ、継続したい
 今年1月に施行された「いしかわ景観総合条例」に基づき、県は小学生らを対象にした 体験型の「景観教室」を輪島、白山、小松の3市で初めて開催した。地域の景観の美しさや歴史的な価値に気づき、それを守り向上させていく心を養うことは「ふるさと教育」そのものであると私たちは考えてきた。こうした地道な景観学習をさらに地域に広げ、継続するよう望みたい。

 県は昨年7月、全国初の取り組みとして景観条例と屋外広告物条例を一本化した景観総 合条例を制定した。景観総合計画や眺望計画の策定、広告物規制、景観形成政策などに関する規定を網羅しており、理念として県民一人ひとりが景観づくりの主役と認識し、優れた景観を次世代に継承することを説いている。地域固有の景観の保全・創出を図るため、県独自の考え方や施策を盛り込んだ先進的な条例とされる。

 ただ、条文は100条を超え、読むだけでも骨の折れる大型条例だけに、必要がない限 り、県民が自主的に目を通すことは望みがたい。このため、景観総合条例の理念の普及と実践を推進するには、行政側からの積極的な広報、啓発活動が欠かせない。

 輪島、白山、小松3市での景観教室は、県の景観アドバイザーを講師にそれぞれ「里山 」「まちなみ」「眺望」をテーマにして開催された。参加した約30〜80人の小中学生らは輪島市の中山間地にある棚田の風景、再開発が進む白山市の街並み、小松市の木場潟から見える白山の姿に目を凝らし、人間の暮らしと景観のあり方について考えを深めた。

 今回の景観教室は子どもたちの夏休みを利用して開かれたが、今後は県の事業としてだ けでなく、市町ごとに開催されてよい。地元の景観のよさ、それを形成してきた歴史の積み重ねを知ることは、地域に対する愛着や自信につながる。子どもだけでなく大人向けの勉強会も考えられる。

 景観学習はこれからの地域づくりの担い手教育でもり、学校教育の中に組み込む積極性 もあってよいだろう。