きょうのコラム「時鐘」 2009年9月3日

 性犯罪事件を審理する初の裁判員裁判が青森地裁で始まった。折しも金沢地検がアパート侵入事件の容疑者を強盗強姦罪で起訴、裁判員裁判の対象となることが決まった

性犯罪は裁判員裁判の2割程度を占めると予測されているが、深刻な課題を背負ったまま本番に入った感がする。青森地裁では被害者名を匿名にし、住居や生活圏が同じ裁判員候補は外すなどの配慮で被害者のプライバシーを保護した

が、性犯罪の課題はプライバシー保護だけではない。「女性の敵」とされる被告を裁く思いは、女性と男性では異なるだろう。また、公判中に被害者の「落ち度」が問われることになれば、法廷は傷ついた女性を2度傷つけることになる

裁判員の男女比率の偏りは、先の東京地裁でも今回の青森でもあった。被害者の「落ち度」が言及されるケースも東京では見られた。だからと言って裁判所が恣意(しい)的に裁判員を選べば、住民から無作為に選ぶ制度の趣旨に背く

裁判員裁判は、回数を重ねながら矛盾を解消していくしかないといわれるが、その過程で制度の犠牲になる被害者は、たまったものではない。