「鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」」

鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」

2008年1月31日(木)

格差の徹底排除で成長するNFL(上)

「競い合うのは試合の3時間だけ」の共存共栄モデル

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2000年に開催された第34回スーパーボールの風景
写真:トム・ハック/Getty Images Sport

 この時期になると、日本のスポーツファンも週末に開催される第42回スーパーボウル(米プロフットボールリーグNFLの優勝決定戦)の行方が気になる人も多いことでしょう。この米国で最も人気のあるスポーツイベントは、日本で考えるスポーツの概念を超えています。代表的なファクトを並べてみると、以下のようになります。

 * 2007年の平均視聴者数は約9700万人と、全世界最大の生中継スポーツイベント
 
 * 米テレビ番組史上、視聴者数ランキングでトップ10を独占

 * 多チャンネル化が進む米国にあって、視聴率は17年連続で40パーセント超

 * 30秒の広告枠(2007年)の平均額は約260万ドル(約2億8600万円)

 * 「スーパーボウルのチケットが当選したから取りに来るように」といった類のおとり捜査が度々行われ、指名手配犯が逮捕される

 * 「スーパーボウル開催日を国民の祝日にしよう」(スーパーボウル・ホリデー)や、「スーパーボウル翌日の月曜日は(会社を休みにして)学校参観日にしよう」という運動もある

 こうした状況からも察しがつくように、米国人に「米国で最も成功しているスポーツは」と聞くと、多くの人が迷わず「NFL」と答えるでしょう。イチロー選手や松坂大輔投手の活躍から、メジャーリーグ(MLB)の方が日本人に馴染みが深いので、意外に思われる方もいるかもしれませんが、NFLが上げる収益はベースボールやバスケットボール、アイスホッケーなどほかの米国プロスポーツを圧倒しています。

売り上げは8000億円近く、過去最高を更新へ

 MLBは昨シーズン(2007年)に、過去最高の60億7500万ドル(約6682億円)の売り上げを記録しましたが、NFLでは同シーズン(2007-08年)の売り上げはMLBを上回る70億ドル(約7700億円)超と試算されています。 NFLの1試合の平均観客動員数は6万8773人で、これはMLBの2倍以上です。テレビ視聴率に至っては、他のスポーツを全く寄せ付けません。

米メジャースポーツにおける平均観客動員数(2006年)

米メジャースポーツのテレビ平均視聴率(2006年)

 こうした背景もあり、NFLに所属する各チームの経済価値は、他のプロスポーツのチームより高いと見られています。米経済誌のフォーブスが試算した各チームの資産価値(2007年)から計算すると、NFLではチーム平均が9億5700万ドル(約1053億円)なのに対し、MLBは同4億3100万ドル(約474億円)、NBA(全米バスケットボール協会)が同3億7200万ドル(約409億円)、NHL(全米アイスホッケーリーグ)同が2億ドル(約220億円)となっています。

米メジャースポーツにおける球団平均資産価値(2007年)

 この米国の4大メジャースポーツは、全米各地にほぼ同数のフランチャイズを持っており、チーム数で互角です。試合数を見るとNFLの場合は他のスポーツより、圧倒的に少ない状況です。NFLの場合は年間たった16試合です。一方、MLBは年間162試合、NBAとNHLは共に81試合にも上ります。試合数で見れば、圧倒的に不利なNFLが収益力で他を凌駕しているのはなぜでしょうか?

 「誰にでもチャンスは与えられ、努力した者が報われる」アメリカンドリームは、今や「強い者はより強く、富める者がより富める」という格差の拡大という歪みが見受けられる現在の米国。そうした社会環境の中にあって、NFLのビジネスが成功している要因を探すと、そこにはチーム間の経営上の格差をなくす様々な取り組みが浮かび上がります。

哲学はリーグ全体で共存共栄

 このNFLの経営思想を一言で言うなら、「League Think」(リーグ全体の共存共栄)にほかなりません。NFLはチーム間の経営格差を徹底的に排除し、フランチャイズのマーケット規模の大小に引きずられない哲学を貫いています。チームの戦力格差が少なくなれば、それだけ拮抗した試合が増え、長期的なリーグの繁栄につながるという考えです。そのために、どのような仕組みが整えられているのか、見ていきましょう。

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著者プロフィール

鈴木 友也 (すずき・ともや)

鈴木 友也 ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社、「トランスインサイト」代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツビジネス発展のために“提供(トランス)”する――。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織、民間企業、メディア、自治体などに対してコンサルティング活動を展開している。ほかにも講演、執筆でも活躍中。著書に『スポーツ経営学ガイドBOOK』(ベースボール・マガジン社、2003年)、訳書に『60億を投資できるMLBのからくり』(同、2006年)がある。中央大学商学部非常勤講師(スポーツマネジメント)。ブログ『スポーツビジネス from NY』も好評連載中。

(写真 丸本 孝彦)


このコラムについて

鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」

「スポーツビジネス先進国」と言われる米国。その市場規模や人気などで日本を凌駕する。そこでは、日本にいては思いつきもしない先進経営が繰り広げられている。だが、進みすぎたが故の問題も内包する。米在住のスポーツマーケティングコンサルタントが、米国スポーツビジネスの現場を歩き、最新トレンドを解説していく。
果たして、米国は日本スポーツ界の「模範解答」となるのだろうか?

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