ヒーロー大放談!!完全収録、荒川弘・ゆうきまさみ対談!!
漫画といえばヒーローだ――!
とはいえ、正直なところ、ヒーロー受難のご時世。
「絶対正義」「人類の未来」が今ひとつ見えにくい今を描く
二大漫画家が考える「ヒーローとは、なんぞや?」。
かたやエド&アルのエルリック兄弟を、
かたやバーディーを生んだ、二人の邂逅は…いかに……?

互いの故郷の地元話も盛り上がった3時間半。
「月刊!スピリッツ」誌上に掲載した対談の、
完全ノーカット版をここに公開!!
〜その1〜 北海道は漫画家を量産する!?
二〇〇九年七月五日 都内某鰻屋
初顔合わせは鰻屋にて。

ゆうき  おつかれです。(ゆうき先生到着)

――   おつかれさまです!

ゆうき  実はこんなの、描いてきちゃった…(と、紙を出す)

――   なんですか? お、絵入りネームだ! …どういうこと? わはは(笑)。
(※この漫画は「月刊!スピリッツ」初号の対談記事に掲載されています。そちらをぜひご覧ください!)

荒川   失礼しますー。(荒川先生到着)

――   荒川さん、おつかれさまです! お二人とも、今日はお忙しいところをありがとうございます。

荒川   ゆうき先生、はじめまして。

ゆうき  こちらこそ、はじめまして!

――   荒川さん、ゆうきさんがネームを描いていらっしゃいました…

荒川   え〜、見ていいんですか? うわぁ! いやいや、私、いつまででも待ちますよ〜!(…この意味は、ゆうき先生の漫画内にあり)なんだか、おばあちゃんの家みたいなお店ですね。そういや私、今年初鰻です。夏になると、やっぱり鰻、鰻となって… そうか、7月ですもんね。

――   じゃあ、鰻を食べながら対談していただきましょうか。

荒川   いただきます。

――   ビール、行きます? 真っ昼間ですけど(笑)。

二人   いや、戻って仕事が…

――   エライ、お二人とも声が揃って(笑)。ゆうきさんもネーム中ですもんね?

ゆうき  ええ、ええ、はい。

――   では、お茶で(笑)。そういえば、荒川さんのご実家は北海道ですよね。地区はどのへんですか?

荒川   はい。十勝のど真ん中からちょい下ぐらいです。

――   そうすると、帰省される時はどうやって行くんですか。

荒川   帯広空港に。うちは空港から車で20分ぐらいなので。向こうからは便利なんですけど、逆に今住んでいる所から空港に行くのが面倒くさくて。空港まで2時間ぐらいかかるのかな。うちの実家からは、飛行機が往復しているのが見えるから、「あっ、降りてきた。よし空港行くか」みたいな感じで(笑)。

ゆうき  旅行の時は、やっぱり空港までが一番の大仕事って感じで?

荒川   うちの姉ちゃんが北海道の稚内に住んでいるんですけど、一回飛行機で東京に出てから、帯広にまた飛行機で行ったほうが車で来るより早いって言うんですよ。あっ、ゆうき先生も北海道ですよね。

ゆうき  生まれは札幌ですけど、実家は今、倶知安って所にあります。

荒川   「くっちゃん」は、難読漢字でよく使われてますよね。いまだに北海道の地名、全部読めないですよ。

――   なんであんなに難しいんですかね。

ゆうき  アイヌ語に当てたからですよ。昔、『ワイルド7』で、望月三起也さんが描いてた架空の地名なんですけども、「ムフンベツ(無分別)」というのがあって…すげえ(笑)。

荒川   北海道だったらありそう(笑)。ヤリキレナイ川って、ほんとにありますから。

ゆうき  実感も込めて、「ネタリナイ(根足内)」というのはどうかな(笑)。

荒川   「ネタリナイ」もありそうですね(笑)。

初顔合わせは鰻屋にて。

――   あと、ゆうきさんの通われていた母校は、京極夏彦さんもご出身で。北海道って作家を量産していますよね。

ゆうき  京極さんは、倶知安高校の5年後輩かな。だから面識はないんですけどね。

荒川   へえ〜。そういえば他の方の漫画を読んだ時に、「あっ、何かいい空気感だな」と思ってプロフィールの出身地を見たら、北海道だったりしません?

ゆうき  北海道、また漫画家が多いんですよ。

荒川   多いですよね。

ゆうき  新潟、北海道とか、なぜか多いんですよ。

――   やっぱり雪の中の?

ゆうき  みんな言うけどね。「冬は雪に閉じ込められているから漫画でも描いているしかないんじゃないか」とよく言われるんだけど、実際の北海道の人間は、僕みたいに体を動かすのが嫌いな人間は別として、冬になったらスキーやってますからね。

荒川   閉じ込められはしないですね。自分で除雪してどこか行っちゃいますもんね。

ゆうき  そうなんだよね。

荒川   娯楽がないというのはあるかもしれない。

ゆうき  だから、小説家や漫画家…いわゆる作家になった人というのは、僕が考えるに、明治時代に出世コースに乗れなかった地方の人たちがなっているんじゃないか、と。

――   士族や華族ではない人たちが多い、と。

ゆうき  うん。あと、あれですね。官軍側じゃなかった人たち。だから、出世が見込めなかった地方の人たち。

荒川   うち、開拓農民だから、そうですよ。本州で食えなかった人間ですよ。北海道行けば土地がもらえると言われて、移住した…(笑)。

――   それは何年ぐらいに移り住んだんですか。

荒川   やっぱり、明治ですね。群馬の館林のほうから北海道に来たんです。

ゆうき  あと、調べたことはないけど、長州・薩摩出身の漫画家は少ないんじゃないかと。

荒川   あのへん、確かに少ないかもしれない。

――   土佐には、わりと漫画家さんはいらっしゃるんですけどね。

ゆうき  高知。だって、あそこは民権運動で主流から外れましたもん。明治の主流は薩長だけだから。

荒川   「PAPUWA」の柴田亜美先生が長崎出身なんですよ。いかにも、と言われるそうなんですよね。あと、東京出身の方もわかるとか。何かが違うらしい。

――   作品で、ですか?

荒川   作品で。

――   でも、私も漫画読むと、なんとなく北海道の漫画家さんってわかります。

ゆうき  わかんねぇな、俺は。

――   佐々木倫子さんとか、すごく北海道っぽい。

ゆうき  でも、舞台が北海道じゃないですか。

荒川   めっちゃ北海道じゃないですか。

――   いやいや、そういうこと以外に、共通の空気感があるんですよ〜、北海道の方の漫画って(笑)。

初顔合わせは鰻屋にて。

荒川   そういえばこの前、佐藤秀峰さんの漫画を読んでたら、雪の景色に「おっ」と思って。あとから調べてみたら北海道人。雪の降り方が、やっぱり…

――   雪景色はやっぱり違うんですよね。

荒川   安彦先生も。『王道の狗』の中の一枚絵に、「えっ?」と思って。すごく少ない線で、「北海道だ」ってわかる原生林を描いていらして。

ゆうき  子供の頃の記憶なのかもね。そういや、安彦さんの出た高校というのが、またすごくてね。湖川友謙さんとか、他にも何人も輩出しているんですよ。

――   濃いんですね。

荒川   以前、北海道新聞に出身漫画家一覧が出ていたんですよ。めちゃくちゃ多くてビックリしました。

ゆうき  僕も北海道新聞の正月特集に、でっかいイラストを描いたことがある。

――   それはいつ頃ですか。

ゆうき  「じゃじゃ馬(グルーミン★UP!)」やってた頃かな。馬を描いた覚えがあるから。

荒川   あれは、まさに北海道ですよね。かなり取材に行かれたんですか。

ゆうき  そんなに多くは。夏、冬、二回ずつ位だったかな。

荒川   そんなものですか。すごい。

ゆうき  最初に大雑把に写真撮ってきて、わからない所はいい加減に描きながら(笑)、わからなかった箇所を次の取材で重点的に写真撮って。

――   その頃はまったく休載せずやっていたから、取材に行くのも大変でしたよね。

ゆうき  うん。

荒川   早来とか、あのへんですか。

ゆうき  主に静内でした。当時の担当さんが学生時代にバイトしていた牧場があったので、そこに取材に行ったり。

荒川   静内というと、桜が。毎年、桜の季節になるとソワソワしますけど。

ゆうき  日本で最後にお花見やる所。

――   そういえば、高橋しんさんも北海道出身で。

荒川   あっ、士別ですね。

――   誕生日会とか何かお祝いだっていうと、家の駐車場とかでジンギスカンやるのが常だった、と以前お話しされてました。地域によって違うのかもしれないですけど。

荒川   いや、どこでもジンギスカンですね。運動会でジンギスカン、学芸会でジンギスカン、何かあるとジンギスカン。

ゆうき  僕は、ジンギスカンの経験、ほとんどないです。うちは豚が多かったかな。

荒川   あ、北海道、豚も多いですよね。すき焼きに豚。

ゆうき  焼き鳥と称する豚とか(笑)。

――   北海道はやっぱり文化が違いますね。

初顔合わせは鰻屋にて。

荒川   違うといえば足寄町という町があって、人口数千人の所なんですけど、大阪市の6倍くらいデカいですもん。

――   そんなにデッカい町があるんですか。

ゆうき  だって、市にするほどの人口がないんだもん。

荒川   そう。牛のほうが多い。

――   牛区とか牛市にするしかないんですね(笑)。

荒川   みんな牛市になっちゃう。

ゆうき  あとは、牛に住民票が出るか。

――   税金納めるの、どうするんだろう。

荒川   ヤツら一頭一頭、血統書ついているから。名前ついてるから(笑)。

――   交付金、すごいもらえる!

荒川   そう。いっぱいもらえますよ(笑)。土地は広大なんだけど、跡継ぎがいないから…。うちもですよ。弟がいるんですけど、弟もこっちへ出てきちゃってるので。上が四人女で、一番下に弟と、五人兄弟なんですけど。上から順番に家を出ていくじゃないですか。弟が長男で末っ子だから、プレッシャーが年々…

――   順番がどんどん後のほうに。

荒川   あ〜あ、あ〜あと。やっぱり誰も継がないのかと。だから弟が嫁を連れてきたら、すごくおもしろいなと思って。「姉ちゃん、四人いるよ」って言ったら、はたして嫁に来るかどうか。小姑四人、農家の長男でも嫁に来る人がいたら、すばらしいんですけど。だから、弟の嫁が楽しみで仕方ない。

――   弟さん、ギリギリまで会わせなそうですよね。

荒川   「結婚するから」で終わるよ。

ゆうき  もう光景が、荒川さんの絵で浮かんでくるね(笑)。

荒川   獣医漫画とか農家漫画はあるけど、農業高校漫画はないから、そのうちやろうかなとか思って。

――   荒川さん、農業高校出身ですものね。

荒川   普通の五教科が、めちゃくちゃ薄っぺらい教科書なんですよ。普通、数学でも色々分かれてるし、分厚い教科書が何冊もあるじゃないですか。うち、めちゃくちゃ薄いんですよ。

――   実験みたいな科目が多いんですか。

荒川   畜産、農業機械、作物、あとは実習。あと、経理の授業が。

――   あっ、経理を。

荒川   帳簿つけられなきゃいけないから。

――   でも、数学やるより、そっちのほうがためになりますよね。生きていくうえでは。

荒川   ただ、面倒くさい。減価償却が年何%とか、わけがわからない。

ゆうき  経営者を育てなきゃいけないからね。

――   それって食べ物も作るんですか。

荒川   そうです。学校で牛飼って、豚飼って、ニワトリ飼って、畑作って。そう、畑もあるんです。入学してすぐに校内マラソン大会があります、と。「コースは学校の敷地のまわり一周」と言われて、じゃあたいしたことないと思ったら、10kmあるんですよね。うちの高校、全国で一、二位を争うぐらい広い土地らしくて。…騙されたと(笑)。

ゆうき  東京に出てきて、学校の校庭を見るとやっぱり「狭っ!」と思うね。

――   そんなに言うほど、違うものなんですか。

荒川   校庭で、あらゆる部活がひしめき合っているじゃないですか。場所を分け合っているみたいな。

ゆうき  だってうちの高校、球技大会で、ソフトボールが三面取れましたからね。

荒川   うちも、四面取れました。逆に、「なんで、そんなに広い高校なのに強くなれないんだろう」と思いますけど(笑)。

ゆうき  でも、昔はやっぱり冬の練習ができなかったからですね。

荒川   隣の学校は、ビニールハウスをわざわざ作って運動していましたけどね。

ゆうき  全然、漫画の話は始まりませんけど。

荒川   北海道の話ばかり。

――   そろそろ、じゃあ。本題をよろしくお願いいたします!

つづきは、9月3日(木)更新です!! お楽しみに!!
荒川先生と勇気先生
【荒川弘】
ARAKAWA HIROMU
北海道生まれ。
‘99年『STRAY DOG』で第9回エニックス21世紀マンガ大賞を受賞しデビュー。 ‘01年から「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載を開始した『鋼の錬金術師』が大ヒットし、‘04年には第49回小学館漫画賞、‘06年には第5回東京アニメアワード原作賞を受賞。『鋼〜』の他に、『獣神演武』(原案・黄金周、脚本、杜稜)も「月刊少年ガンガン」にて連載中。

『鋼の錬金術師』最新単行本第23巻、絶賛発売中!!

◆TVアニメ『鋼の錬金術師FA』絶賛放送中!
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【ゆうきまさみ】
YUUKI MASAMI
北海道生まれ。
‘80年『月刊OUT』(みのり書房)掲載の『ざ・ライバル』でデビュー。おもな作品は『究極超人あ〜る』、第36回小学館漫画賞受賞の『機動警察パトレイバー』、『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』、『鉄腕バーディー』(いずれも小学館)。現在、「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて『鉄腕バーディーEVOLUTION』連載中。

『鉄腕バーディーEVOLUTION』単行本第1〜2集、絶賛発売中!!

◆ TVアニメ『鉄腕バーディー DECODE』
DVD 第1期、第2期共に絶賛発売中!!

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取材/輔老 心+
スピリッツ編集部