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鳩山新政権へ―「政権主導」の強い基盤を

 民主党の鳩山代表は、途方もない重荷を負って荒海に乗り出す船長の思いではなかろうか。

 特別国会で16日、首相に選出される。船出までに政権が政治を主導する態勢を築かねばならない。過去にモデルはない。白地に絵を描く作業の始まりである。

 鉄は熱いうちに打て、という。

 総選挙直後に朝日新聞が行った世論調査では、政権交代を「よかった」、民主党政権に「期待する」と答えた人がともに7割前後に達した。長年の自民党政治を変える、官僚主導から国民主導の政治へ。そうした民主党の訴えに対する熱い思いが読みとれる。

■かぎ握る国家戦略局

 この民意にどう応えるか。まず重要なのは、司令塔として政府全体に号令をかけ、果敢に政策の優先順位を判断していく人事、組織づくりである。

 内閣と与党の意思決定のプロセスを一元化する。官僚への丸投げではなく、政権党が責任を持って決める。これが民主党の掲げる政権主導のシステムだ。「国益」「国民益」重視の政権運営の仕組みに根っこから変えていきたいということだろう。

 そのために、約100人の与党の国会議員が政府に入って、省庁ごとに大臣を中心にした政治家集団で政策づくりを主導する。官僚のおぜん立てに乗るのではなく、まず政治家が判断し、官僚を動かす。そんなイメージだ。

 この「政権主導」「脱・官僚依存」の仕組みを動かす鍵は、新設される首相直属の「国家戦略局」が握る。

 これまで財務官僚を中心に下からの積み上げでつくられていた予算編成のプロセスをひっくり返し、優先すべき政策を決め、下へおろす。外交政策など国家ビジョンの策定にもあたる。

 首相を頂点にした意思決定の扇のかなめに位置する組織である。

 この方向は時代の要請でもあろう。だが、自民党政権時代は、経済人や学者を交えた経済財政諮問会議や霞が関の巨大な官僚組織が束になって取り組んできた仕事だ。それをまったく新しい組織で動かそうというのだから、大変な大手術になるのは明らかだ。

■政官の新たな協働を

 だからこそ、戦略局の担当閣僚の人選は大事であり、難しい。政策に明るいことはもちろん、党内外の抵抗を封じる強力な政治力が求められる。国会議員だけでなく、民間の人材も積極的に登用し、意欲と能力のあるスタッフをそろえるべきだ。

 民主党政権が最重視する行政のムダと不正の排除に取り組む「行政刷新会議」。担当相は財源をひねり出すだけでなく、政治と行政を透明化し、有権者の積年の政治不信をぬぐう任務も負う。自民党政権時代と何が変わるのか、成果を直ちに出さねばならない。

 財政政策を直接仕切る財務相。党内や連立与党を調整しつつ、外交交渉の先頭に立つ外相。政府のかなめを握る官房長官。これら主要閣僚の人選にしくじれば、新政権はすぐにも立ち往生してしまうだろう。

 政権の屋台骨を支える閣僚については、基本的に途中で交代させないという長期戦略も必要ではないか。

 官僚機構との間に、活力に富んだ協力関係を築くことも重要である。

 政治主導は当然のことだが、限られた数の政治家がすべてを担うわけにはいかない。

 官僚は、知識と経験を兼ね備えた政策の企画や執行のプロ集団だ。政権の下支えとしてその力を引き出せなければ、政権運営はとてもおぼつかない。

 官僚の側にも注文がある。戦後の日本の繁栄を支え、国益を担ってきたという自負を、新しい政治の枠組みの中で生かしてもらいたい。公平で効率的な行政のあり方を進言し、政権が人気取りに走ろうとすれば歯止めをかける。そんな新しい「官」の姿をつくる気概を見せてはどうか。

■党の結束あってこそ

 140人を超える民主党の新人議員たちにも考えてほしいことがある。皆さんを当選させ、政権交代を実現させた民意は、民主党に何を期待しているのかをである。

 政府に加わらない多くの与党議員たちにも、政治家として自らの責任で発言し、政策づくりのプロセスに意見を反映させるべく、大いに行動してもらいたい。

 だが、同時に、政権党として決めた結論には自らも責任を負うことをしっかり認識する必要がある。民意によって与えられたパワーをいたずらに分散させることがあってはならない。

 そのことを一番身に染みて感じているのは、今回の選挙戦を事実上、指揮した小沢一郎代表代行かもしれない。

 16年前、自ら主導してつくった細川政権が短期間で崩壊したのは、八つもの政党・会派が寄り集まった与党内の結束の乱れが大きな原因だった。

 西松建設からのダミー献金事件で秘書の公判を控えていることもあって、小沢氏は今回は閣内に入らず、引き続き党で選挙対策を担う考えのようだ。

 代表代行のままなのか、幹事長に就くのか。いずれにせよ、その力と経験を「鳩山首相」の指導力の確立に大いに役立ててほしい。

 巨大与党を結束させていくのは容易なことではない。だが、それができなければ、大変な課題を前に新しい政治に託した民意に背くことになる。

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