きょうの社説 2009年9月2日

◎補正予算の執行停止 景気、雇用情勢を見極めて
 民主党は、麻生内閣が景気対策として成立させた2009年度補正予算の執行を停止す る方針を固めたという。当初、秋の臨時国会で予定していた予算の組み替えは来年の通常国会に先送りする考えで、執行停止の予算は未執行分の3兆円程度とされるが、景気、雇用情勢はなお楽観を許さない状況であり、慎重に判断してほしい。

 5月に成立した補正予算は総額約14兆円で、執行停止の主な対象として、官公庁施設 整備費(約2兆9千億円)などの公共事業や46基金への支出(約4兆3700億円)が挙げられている。基金の多くは、国の補助金を受けて都道府県が運営することになっており、石川、富山県も地球温暖化対策事業を支援し、雇用を創出する「地域グリーンニューディール基金」などの造成準備を進めている。

 民主党は、天下り団体が予算執行に関与することから、基金による経済対策を疑問視し ているが、基金の中で、例えば「緊急人材育成・就職支援基金」で失業者の職業訓練を行う事業は既に石川、富山県で動き出しており、その効果が期待されている。

 地域の景気回復の足取りはおぼつかなく、雇用情勢は深刻さを増している。予算の執行 停止は景気回復に冷水をかけることになりかねず、経済情勢を見極めて、停止対象を判断してもらいたい。

 民主党は補正予算の執行停止に加え、8月末に締め切った10年度予算の概算要求を全 面的に見直す方針を示している。無駄をなくすため歳出構造を改めるという政権公約実現の第一歩であり、同党としては当然の取り組みといえる。

 ただ、概算要求のやり直しは異例であり、これに伴って政府、さらには自治体の予算編 成が大幅に遅れるようなことになれば、景気への悪影響も心配される。

 4〜6月期の実質GDP(国内総生産)はプラスに転じたとはいえ、これまでの景気対 策が息切れして「二番底」の恐れも否定できない。危機的状況を脱していない経済への警戒感を解いてはならず、場合によっては、第二次補正による追加景気対策も念頭に置く必要があるのではないか。

◎「おもてなしの向上」 障害者の旅行介助も課題
 北陸新幹線の開業効果を最大限に引き出す県のアクションプランを具体化するため、三 つの重点プロジェクトごとの作業部会が順次開かれている。最初に持たれた「おもてなしの向上」に関する作業部会では、「観光客に優しい石川」づくりをめざす具体的な事業化計画を年度内にまとめる予定であるが、その中で検討してほしいことの一つは、体の不自由な観光旅行者に対するサービス力の向上である。

 近年は「トラベルヘルパー」や「トラベルボランティア」と呼ばれる旅行介助者の手助 けを受けながら旅を楽しむ高齢者や障害者が増えており、施設のバリアフリー化だけでなく、ソフト面の対応力を高めることが求められる。

 政府は高齢者や障害者が建築物、公共交通を一層円滑に利用できるようにするため、従 来のハートビル法と交通バリアフリー法を一本化した「バリアフリー新法」を2006年に施行している。

 こうした国のまちづくり政策に並行して、全国の観光都市の中には「バリアフリー観光 」を前面に掲げて、お年寄りや障害者も訪れやすいようにする観光施策に力を入れるところが増えている。

 今年に入っての例では、京都市と松江市で「バリアフリー観光案内所」に「バリアフリ ーツアーセンター」という名の施設が相次いで開設された。車いす利用者や視覚、聴覚障害者らを介助する人を配置して観光案内をするほか、旅行相談や情報発信を行う民間施設である。自治体の中には、旅行介助サービスの人材育成に取り組むところもあるという。

 より魅力のある観光地にするために、もてなし(ホスピタリティー)をよくすることの 重要性はかねて指摘されるところであり、接客業の人たちだけでなく、住民を含めた地域全体のもてなし力を競い合う状況になっている。

 北陸新幹線開業に向けた県のアクションプランで、「おもてなしの向上」を柱の一つに 据えたのはもっともなことである。今後、障害を持った人たちへの情報提供やサービス向上策についても研究してもらいたい。