前田氏は9人の候補者のうち最下位。当選した海江田氏とは約14万票もの大差をつけられた。しかも、得票数が有効投票総数の10分の1を下回ったため、供託金は没収される。
前田氏の実質的な選挙戦は他の候補者より大幅に短い2日間だった。新潟市在住で「交通費もなく、東京の滞在費もバカにならない」という経済的理由からだ。貴重な2日間は、東京・秋葉原の駅前でたった1人、拡声器も使わずに白黒コピーのビラを配布した。「出来合いの物で作った」とタスキは、タオルにフェルトペンで名前を書いたもので「ビラも近所の5円コピーで印刷した」という。
わざわざ東京1区に出たのは「新潟の有権者はテレビや新聞を見ただけで満足する人が多く、耳を傾けてくれない」。ホームページやニコニコ動画に自身の主張をアップし、“IT戦”を中心に主張を展開しており、立候補地は東京がふさわしいと判断した。
都内や新潟県内で郵便局に勤めていた前田氏だが、「小泉郵政改悪で、お客さんへのサービスよりも利益優先になった仕事場に嫌気がさし」、2005年に退職。その後は無職で独身。「ハローワークでは、普通に結婚して子供をつくれるような職は見つからない。雇用情勢が良くなる展望も見えない」。自ら格差社会に苦しむ中で「いてもたってもいられなくなって出馬した」という。
スローガンは「合衆国日本!」。道州制を意識しているかに見えるが「単純にアメリカ合衆国のように自由、人権、独立をアピールした。(架空の大国が戦うロボットアニメ)『コードギアス』を参考にした」と語る。政策の中にはアニメーターの所得向上や、若手アイドルが活躍したイベントスペースがあった秋葉原の石丸電気SOFT1(今年5月閉店)の代替施設を国費で借り上げる案も盛り込んでいた。
だが、供託金没収で、すべてが水の泡に…。前田氏は「今は日暮里のホテルにいますが、これから職探しになるかな。もう選挙は難しいかもしれないが、こんな公約を掲げた人がいたと後々、伝わればいい。後悔していません」と晴々とした口調で語った。