裁判員制度

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

裁判員制度:スタート、課題は… 市民に不安残したまま /鳥取

 ◇湯梨浜の事件適用へ

 刑事裁判に市民が参加し、プロの裁判官とともに評議して判決を下す裁判員制度が21日、スタートした。対象となるのは、殺人や強盗致死傷、危険運転致死傷などの重大犯罪で、21日以降に起訴された事件。県内では、今月9日に強盗殺人未遂容疑で湯梨浜町の男が逮捕された事件が初の適用事件になり、8月ごろに裁判が始まる見通しだ。年間10件前後の対象事件が発生すると見込まれている。市民に不安を残したままスタートした裁判員制度。鳥取地裁であった模擬裁判や法曹三者の話から課題を改めて考えてみる。【遠藤浩二】

 県内では1040人の有権者が無作為抽出で裁判員候補者に選ばれ、昨年11月に通知が送られた。高齢や病気などの理由でうち275人が外れた。765人の中から事件ごとに50~100人程度が鳥取地裁に呼び出される。

 当日は、裁判員の選任手続きから始まる。まず、地裁職員から事件概要の説明がある。その後、別室で裁判長から質問を受け、対象事件について公平な裁判をできそうにない人が除外される。残った中から抽選で6人が裁判員に選ばれる。

 鳥取地裁は鳥取市東町2にある。選任手続きが午前中にある場合、南部町など遠方の人は前日に鳥取入りする必要がある。抽選で外れれば1、2時間程度ですべておしまい。模擬裁判は鳥取市内在住者を対象に行われたが、それでも抽選にもれた人から「仕事を休んできたのに、これだけで終わりとはがっかり」との声が上がった。泊まりがけで来て、抽選で外れた候補者から不満の声が出るのは避けられそうにない。

 抽選は、男女比や年齢などは考慮せずコンピューターが無作為で行う。例えば、強姦致死傷事件で全員が女性の裁判員になったり、退職した高齢者が金に困って強盗致死傷を起こした事件で、裁判員全員が同年代の退職者になることもあり得ないことではない。事件によっては、性差や年齢差が判決に影響することも懸念される。

 模擬裁判で裁判官と裁判員が話し合う評議中、「個人の情がわいてしまう」と述べた裁判員がいた。小倉哲浩裁判官は「その情がどこから出てくるのか考えて下さい」と応じた。小倉裁判官は「感情を評議の場で出すことによって意見の深みが増す」と指摘する。裁判員が自由に意見を述べられる場を目指すという。

 一方、検察官や弁護士は法廷で裁判官に訴える「説明のうまさ」が要求される。森祥平弁護士は、ビデオで自分を撮影して歩くスピード、姿勢や口癖などを繰り返しチェックし、練習を重ねてきた。「負担は大きいが、本来あるべき姿になった。法廷は本来こういう場」と話す。

 検察官も「甲、乙号証」といった聞き慣れぬ裁判用語を極力避け、テレビモニターに写真や図などを映し出して視覚に訴える立証に努めてきた。鳥取地検の北佳子次席検事は「裁判員制度を踏まえ、分かりやすい立証を目指しやってきた。準備はできている」と話す。一方、演出が過ぎると「分かりやすい」を通り越し、法廷が劇場化するおそれも否定できない。

 人口最少県の鳥取。被告が身近な人物であることも起こりうる。模擬裁判に参加した女性(48)は「被告の関係者から報復もあるかもしれない」と不安を隠さない。地裁職員も「鳥取は地域が狭いため格段の配慮が必要になる」と話す。

 市民の不安が払しょくできない中で裁判員制度が動き出した。制度の見直しは3年後。実際の裁判が始まっても、開かれたより良い裁判を求めて手探りが続きそうだ。

毎日新聞 2009年5月22日 地方版

裁判員制度 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド