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学ぶ権利、格差に「NO」 高校生も政治に訴え

2009年9月1日

写真「お金がないと学校に行けないの?」と題した集会で、授業料の無償化などを訴えた高校生たち=7月26日、埼玉県三郷市

 授業料の滞納、退学……。「格差社会」に不況が追い打ちをかけるなか、高校生たちが立ち上がり、声を上げ始めている。授業料値上げに反対する生徒集会。教育費の無償化を訴えるパレード。選挙権はないけれど、取り組みを通じて「政治」への思いも強めている。

    ◇

 「授業料値上げ、はんたーい!」。昼休みの中庭に生徒が集まり、校長室に向かって拳を突き上げた。全校生徒の3割近く、約600人。6月下旬、名古屋市の私立名古屋高校でのことだ。

■相次ぐ値上げ決定

 08年度の新入生から施設整備費が年間3万6千円値上げされた。さらにこの5月、突然、来春の新入生から授業料が年間3万円値上げされることが決まった。学校側は「これまで10年間値上げしていない。新校舎を建設中で、今後の学校経営のことを考えた」という。

 3年の男子生徒(18)は最初、今の在校生には関係がない話だと思っていた。でも「未来の生徒を苦しめないで」と反対し、ハンガーストライキをしていた先生が脱水症状で倒れる様子をすぐそばで見て、ショックを受けた。「値上げは、本当は今いる僕たちに投げかけられた問題ではないか」「何かできないか」

 生徒集会を企画し、仲間5人とビラをつくって当日の朝、校門で配った。他の級友も「協力したい」と他のクラスを回り、黒板に告知を書いてくれた。携帯メールも流してくれた。

 集会の1時間前、教頭に呼び出されて「大げさだ」と言われた。「でも、残り少ない高校生活で後悔したくなかった。『伝説』も作りたかった」

 「学費が高すぎて払えない、ただそれだけの理由で学ぶ権利が奪われ、仲間を失うことになりかねない」。考えておいた反対決議を集会で読むと、みんな大きな拍手で賛同してくれた。

 学校側の値上げ方針は今も変わらない。でも、授業料の問題が生徒たちの間で話題に上るようになり、意識は確実に変わったと感じている。

 今のところ、経済的理由で学校をやめる仲間は周りにはまだ出ていない。でも、奨学金を借りてやりくりしている人はいる。自分も両親はおらず、祖母にお金を出してもらって1人で暮らしている。余裕があるわけではない。

 総選挙で教育費負担の問題が注目されていることはうれしい。ただ、私立の生徒のことも十分に考えてほしいと思う。「私立はぜいたくと言う人もいるけど、『子どもには学校を選ぶ権利はないの?』って聞きたい。みんなが学びたいところで学べるようにしてほしい」

■「先が不安で怖い」

 「お金がないと学校に行けないの?」。7月26日、埼玉県三郷市でそんなタイトルの集会を開いたのは、定時制の高校生たちだ。

 「この先が不安で怖い」。実行委員長を務めた埼玉県立の定時制に通う女子生徒(17)は、集会でそう語った。

 週6日のアルバイトで家計を支える日々。先生の助言で授業料の減免制度を知り、奨学金も申請して一息ついたが、厳しい状況は変わらない。授業料は月3千円弱だが、修学旅行の積立金や交通費なども含めると毎月2万円はかかる。アルバイトの採用でも学歴がついてまわる社会の実情を目の当たりにしてきたが、今のままでは進学は難しい。保育士になる夢は、夢で終わるかもしれない。

 女子生徒が今回の取り組みに参加したのは、義務教育から先に進んでも教育費が無料の国があると知ったからだ。そんな制度ができて、学びたい気持ちが大事にされる社会になればすてきだと思う。

 もともと学校を超えたつながりが強かった県内の定時制高校の生徒を中心に、知り合いの全日制の生徒や、教員のつてで県外の生徒も加わって20人程度が企画に携わった。

 高校生の現状を知ろうとアンケートを思いつき、友達のつてなどで回した質問への回答は、3カ月ほどで2千人分を超えた。

 定時制の生徒で、お金が払えず修学旅行に行けないという人は7%。授業料の減免を受けたいと思っている人は12%。一方、全日制でも、進学できるかどうか学費を心配している生徒は21%、「学費のことで家族に迷惑をかけて申し訳ない」と思っている生徒も28%いた。

 「お金がなくても学校に行きたい」

 集会の1週間前、女子生徒らは東京・渋谷の繁華街をパレードし、そう声を張りあげた。参加者は50人ほど。でも、自分たちの後ろにはたくさんの高校生がいると感じた。

 「選挙権は持ってないけれど、わたしたちにも政治は関心を向けて欲しい」。女子生徒は、そう思っている。(葉山梢、宮本茂頼)

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