「楢山節考」や「笛吹川」で知られる作家の深沢七郎(1914~87)が、作家デビュー前から各地で開いていたギター演奏会のプログラムが多数見つかった。深沢は戦前からギタリストとして活躍しており、見つかったプログラムは、深沢の軌跡を知る上で、貴重な資料といえそうだ。
深沢は56年、「楢山節考」(中央公論新人賞)でデビュー。当時は日劇でギターを演奏していた。今回見つかったプログラムは計16部、最も古い日付は、昭和13年5月14日。深沢自身の独奏会、ギターの師・故小倉俊の演奏会に出演したもの、深沢が創設した「福岡ターレガ倶楽部」のプログラムなどがある。
深沢七郎の顔写真を掲載した表紙や、戦時中だったことから会場の窓を黒い幕で覆って演奏したことを示す「燈火(とうか)カンセイ下」の書き込みもある。
演奏曲目には、クラシックギターの古典的名曲「アルハンブラの思い出」や、作曲家の故小栗孝之による朝鮮や台湾の俗謡が並ぶ。
深沢七郎研究家の金子明さん(61)が遺品を整理中に発見した。金子さんは「古典や民族の歴史をさかのぼる姿勢は、日本古来の姨捨山(おばすてやま)を取り上げた『楢山節考』にも通じる。戦時中、軟弱だとされた音楽をやめることなく、表現活動を追求していたことがよく分かる」と話している。【棚部秀行】
毎日新聞 2009年8月27日 15時00分(最終更新 8月27日 15時00分)