≪特別寄稿≫私の政治哲学−祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印:鳩山由紀夫(民主党代表)(1)
党人派・鳩山一郎の政治信条
現代の日本人に好まれている言葉の一つが「愛」だが、これは普通〈love〉のことだ。そのため、私が「友愛」を語るのを聞いてなんとなく柔弱な印象を受ける人が多いようだ。しかし私の言う「友愛」はこれとは異なる概念である。それはフランス革命のスローガン「自由・平等・博愛」の「博愛=フラタナティ(fraternite)」のことを指す。
祖父鳩山一郎が、クーデンホフ・カレルギーの著書を翻訳して出版したとき、このフラタナティを博愛ではなくて友愛と訳した。それは柔弱どころか、革命の旗印ともなった戦闘的概念なのである。
クーデンホフ・カレルギーは、いまから86年前の大正12年(1923年)『汎ヨーロッパ』という著書を刊行し、今日のEUにつながる汎ヨーロッパ運動の提唱者となった。彼は日本公使をしていたオーストリア貴族と麻布の骨董商の娘青山光子の次男として生まれ、栄次郎という日本名ももっていた。
カレルギーは昭和10年(1935年)『Totalitarian State Against Man(全体主義国家対人間)』と題する著書を出版した。それはソ連共産主義とナチス国家社会主義に対する激しい批判と、彼らの侵出を許した資本主義の放恣に対する深刻な反省に満ちている。
カレルギーは、「自由」こそ人間の尊厳の基礎であり、至上の価値と考えていた。そして、それを保障するものとして私有財産制度を擁護した。その一方で、資本主義が深刻な社会的不平等を生み出し、それを温床とする「平等」への希求が共産主義を生み、さらに資本主義と共産主義の双方に対抗するものとして国家社会主義を生み出したことを、彼は深く憂いた。
「友愛が伴わなければ、自由は無政府状態の混乱を招き、平等は暴政を招く」
ひたすら平等を追う全体主義も、放縦に堕した資本主義も、結果として人間の尊厳を冒し、本来目的であるはずの人間を手段と化してしまう。人間にとって重要でありながら自由も平等もそれが原理主義に陥るとき、それがもたらす惨禍は計り知れない。それらが人間の尊厳を冒すことがないよう均衡を図る理念が必要であり、カレルギーはそれを「友愛」に求めたのである。
「人間は目的であって手段ではない。国家は手段であって目的ではない」
彼の『全体主義国家対人間』は、こういう書き出しで始まる。
カレルギーがこの書物を構想しているころ、二つの全体主義がヨーロッパを席巻し、祖国オーストリアはヒットラーによる併合の危機に晒されていた。彼はヨーロッパ中を駆け巡って、汎ヨーロッパを説き、反ヒットラー、反スターリンを鼓吹した。しかし、その奮闘もむなしくオーストリアはナチスのものとなり、彼は、やがて失意のうちにアメリカに亡命することとなる。映画『カサブランカ』は、カレルギーの逃避行をモデルにしたものだという。
カレルギーが「友愛革命」を説くとき、それは彼が同時代において直面した、左右の全体主義との激しい戦いを支える戦闘の理論だったのである。
戦後、首相の地位を目前にして公職追放となった鳩山一郎は、浪々の徒然にカレルギーの書物を読み、とりわけ共感を覚えた『全体主義国家対人間』を自ら翻訳し、『自由と人生』という書名で出版した。鋭い共産主義批判者であり、かつ軍部主導の計画経済(統制経済)に対抗した鳩山一郎にとって、この書は、戦後日本に吹き荒れるマルクス主義勢力(社会、共産両党や労働運動)の攻勢に抗し、健全な議会制民主主義を作り上げるうえで、最も共感できる理論体系に見えたのだろう。
鳩山一郎は、一方で勢いを増す社共両党に対抗しつつ、他方で官僚派吉田政権を打ち倒し、党人派鳩山政権を打ち立てる旗印として「友愛」を掲げたのである。彼の筆になる『友愛青年同志会綱領』(昭和28年)はその端的な表明だった。
「われわれは自由主義の旗のもとに友愛革命に挺身し、左右両翼の極端なる思想を排除して、健全明朗なる民主社会の実現と自主独立の文化国家の建設に邁進する」
-
2009年9月号のポイント
8月30日、日本の歴史は変わるか。鳩山由紀夫・民主党代表は、党人派の首領だった祖父・一郎元総理から学んだ政治信条を吐露する。≪現在、特設サイト「Voice+」で公開中≫ 特集は“アジア10大危機!「60年の平和」が壊れる日”。経済危機の混乱に紛れ、東アジアで密かに進む歴史的大変動。これから急浮上する深刻な脅威を、10人のプロが詳しく読み解く。
Voice最新号目次 / Voice最新号詳細 / Voice年間購読申し込み / Voiceバックナンバー / Voice書評 / PHP研究所 / 特設サイト『Voice+』
関連ニュース
- 【政権交代】(2)消えた「移行チーム」 首相主導 出足つまずく(産経新聞) 09月01日 08:05
- ≪特別寄稿≫私の政治哲学−祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印:鳩山由紀夫(民主党代表)(5)(Voice) 08月31日 18:02
- ≪特別寄稿≫私の政治哲学−祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印:鳩山由紀夫(民主党代表)(4)(Voice) 08月31日 18:01
- ≪特別寄稿≫私の政治哲学−祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印:鳩山由紀夫(民主党代表)(2)(Voice) 08月31日 18:00
- ヨーロッパの過去から今の日本に伝えたいこと 鳩山由紀夫氏の友愛精神――フィナンシャル・タイムズ(フィナンシャル・タイムズ) 08月19日 09:00
過去1時間で最も読まれた政治ニュース
- 東国原知事「あのとき自民が変わっていれば…」(朝日新聞) 8月31日 21:30
- 首相指名選「麻生と書くと党内とんでもないことに」(読売新聞) 9月1日 13:51
- 「日本にとって素晴らしい日」(フィナンシャル・タイムズ) 9月1日 10:50
- 大量落選で派閥必衰…「本当に自民壊れた」(読売新聞) 9月1日 8:40
- 第一党・民主、お先に始動 都議会スタート 石原知事「衆院選、空恐ろしい感じ」(産経新聞) 9月1日 8:05
政治ニュースで話題になったコトバ |
PAC 山岡賢次 8都県市 鳩山由紀夫 民主党 亀井静香 鳩山 公明 自民党 太田 小沢 農林水産省 細田博之 熊本市 国会 衆院 自民 公明党 麻生 社民党 横浜市 米軍 自民 麻生太郎 東京 横浜 韓国 北朝鮮 日本 |