2004年9月9日(木)、東京・大手町の経団連会館でメディアフォーラム『医療制度改革の方向性とDPCの概要』が開催されました。講師は高橋泰先生。1986年金沢大学医学部を卒業後、92年東京大学医学系大学院で博士課程を修了され、同年スタンフォード大学アジア太平洋研究所客員研究員として留学、94年からはハーバード大学公衆衛生校に武見フェローとして留学され、97年より現職に就かれておられます。また本年よりDPC試行病院協議会事務局長をはじめ多くの公職についておられます。今回の講演では、DPC導入により今後の日本の医療供給体制がどのように変わるのかを、分かりやすく解説していただきました。
●日米欧の医療供給体制の国際比較
講演の最初は現状認識と問題点です。1998年のデータより人口1000人当たりの病床数は日本13.1人、米国3.7人、病床100床当たりの医師数は日本12.5人、米国71.6人、病床100床当たりの看護師数は日本43.5人、米国221人、平均在院日数は日本31.8日、米国7.5日、ドイツ、フランス、イギリスはその中間という表を示され、日本の病床数の多さ、医療スタッフの少なさ、在院日数の多さが指摘されました。一言で言えば日本は低密度治療長期在院型の医療、米国は高密度治療短期在院型の医療と言え、これは日本以外の多くの国から見れば、日本のはナーシングホームと病院の合体に見え、日本から見るとアメリカの病院は、ICUとハイケア・ユニットしかないように見えると説明されました。
●厚生省の政策の方向性
日本のベッド数の多さ、在院日数の多さの原因に、高橋先生は1973年の老人医療無料化や、1985年の第1次医療法改定などの政策により、大幅にベッド数が増えたことを指摘されました。以来日本の国民医療費の年次推移は急な右肩上がりになっており、日本の医療制度改革の方向性は医療費の抑制と医療の質と効率の改善に向かわざるをえず、そのために厚生労働省は病床を減らし、ケースミックスによる支払い方式を導入することにより、ベッドの機能分化を進めようとしていると解説されました。
●ベッド数を減少させる手法
どのようにベッド数を減らすのか、その厚生労働省の戦略を理解せずには今後の病院の生き残りを図ることはできないと先生は説明されます。では具体的手法はどういうことなのか、それは平均在院日数を減らすことと説明されます。従来の在院日数は医師が任意に決定していたもので、それを減らさざるを得ない手法とは、例えば急性期入院加算の支給基準を20日から17日に変えることによって、病院ではなんとか患者さんを短い期間で退院させるよう努力するようになり、その結果人気のある病院は患者さんの流れがよくなり、人気のない病院は患者さんが減るため、病棟の縮小や閉鎖を余儀なくされるだろう、つまり全体として病床が減ることになると説明されました。
●DPCの意味
DPCとは診断群分類のことで医療の純粋な統計手法であり14桁の数字であらわされます。でもそれだけ知っていても日本の医療の今後に起こることの本質はまったく分からないであろうと先生は言います。それは厚生労働省の提唱する医療供給体制の改革ビジョン案を読み解くと、限られた財源から特に優先的に財源が配分されるだろうという分野があり、それは急性期医療と在宅医療であり、中でも急性期医療はほぼDPCと同じであろう、つまりDPCを指向する病院はほとんど急性期医療を担当する病院に変わるであろう、ということが高橋先生の予測です。
つまりDPCに対応する病院としない病院では収入に差が出るだろう、それは実質的に病院の選別につながるであろうし、そして急性期医療に携わりたい病院はDPCに対応せざるを得ない形になり、参入に求められる条件を満たさざるを得なくなるであろうと指摘されます。その条件とは原則2対1の看護体制、データ提供能力、そのための優秀な事務スタッフの確保、診療計画の策定体制、病歴管理とICD10コーディングの体制、電子レセプトの体制、高い病床稼働率、短い平均在院日数などであろうと説明されました。
現実には、多分来年の10月、11月あたりに厚生労働省から、「DPCによる包括医療を希望する病院で条件を満たしているところは、期間内に所定の場所に届出をすること」というような発表があり、全医療機関に開放されることになるだろうと見通しを述べられました。
●DPC普及によりどうなるか
DPCは非常に多くの医療データをルールにのっとり正確に作り上げていかなければなりません。医師も看護師も医事課のスタッフも各々入力をしなければいけませんし、大変な作業です。ですから電子カルテを導入せざるを得ない状況になると高橋先生はみています。しかしデータ化することにより、他病院との比較、自病院内の診療科の比較、医師ごとの診療内容の異なりや売り上げなどが一目瞭然となり改善点などがはっきりします。またそのデータは政策の基礎となる重要な情報となりますし、究極的にはインターネットで開示すれば、患者さんの病院選択の判断データにもなりえると言います。DPCの良い点は恣意的な部分がなく自動的に医療費が決まる仕組みであると先生は指摘します。つまりDPCによる包括評価はコスト管理のモチベーションを生み出すことになるであろうということです。そしてこの公開されている透明なルールに従っていくと日本の医療はどうなるか、一つは医療の選別でありもう一つは医療の標準化である、そのような仕組みが内包されているのがDPCであると解説されました。
講演では高橋先生が多くの病院長、病院経営者らと話しあわれた内容も交えるなど、リアルで分かりやすいお話に終始しました。またその後の質疑応答でも予定時間をオーバーするほどで、参加者のテーマに対する興味深さがあらわれていました。