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政権移行―1分も無駄にできない

 政権移行期に何をしておかねばならないか。総選挙で圧勝した鳩山民主党の、目下の最大の課題だ。

 初めて本格的な政権交代を経験する国民にとっても重大な関心事である。生命や暮らしにかかわる緊急の課題で空白が生じては困るのだ。

 民主党政権が正式に発足するまでには、2週間ほどかかりそうだ。14日からの週に特別国会を開き、鳩山氏を首相に指名したあと、閣僚が任命され、新政府がスタートする。

 鳩山氏は当初、これに向けてすぐにも官房長官、党幹事長ら新政権の骨格人事を固めて「政権移行チーム」を始動させる方針だったが、先送りした。一夜にして3倍近い大所帯になった党内を丁寧に調整する必要があるという判断なのだろう。

 ただ、慎重に政権スタートの準備を進めるのはいいが、先延ばしできない問題もある。たとえば新型インフルエンザへの対応である。

 国内で約38万人が入院し、約3万8千人が重症になる。そんな発症のピークが新政権発足直後の9月下旬から10月にも迫っていると予想されている。それなのに、新型対応のワクチンはピークには間に合わないという。

 自民党政権時代の備え方が不十分だったせいもあるが、一刻も早い対応が必要だ。鳩山氏に求めたい。すぐにでも麻生首相に党首会談を呼びかけ、情報を共有して協力して新しい対策に乗り出すべきだ。

 あと2週間、日本政府の最高責任者は法的には麻生氏だが、今後、国民に不安を抱かせないよう手を打っていくのは、次期政権を担当する鳩山氏の責任でもある。

 麻生氏も、退任するまでは自民党政府が仕切ると言い張るつもりもあるまい。むしろ、麻生氏の側から協力を求めてもおかしくない。

 世界経済危機への対応も、手が抜けない。4日からロンドンでG20の財務相会合が開かれる。現政権から与謝野財務・金融相が出席する予定だが、民主党からも経済や金融にくわしい国会議員を派遣すべきだ。

 政権を引き継ぐ民主党にとって、役立つだけではない。これからの日本の財政や金融政策をどうするのか、世界の主要国と基本認識を語り合い、安心感をもってもらう効果は大きい。

 参考にしたいのは、今年1月に就任したオバマ米大統領だ。金融危機まっただ中の大統領選挙で勝利するや、「今日から仕事が始まる。1分でも無駄にできない」と就任の2カ月前に経済チームを任命し、過去最大級の景気対策を準備した。

 大事なのは、時間をかけるべきものと、緊急に対応すべきものを見分け、迅速に行動することだ。そんな緊張感のある2週間にしてもらいたい。

歴史的惨敗―出直し自民党への教訓

 まさにオセロゲームのような逆転劇だった。公明党とともに衆院で3分の2超の数を誇り、法案の再可決を繰り返してきた自民党は、一夜にして4分の1以下の勢力に転落した。

 敗因は明白だ。「自由民主党に対する積年の不満をぬぐい去ることができなかった」。麻生首相自身がそう振り返った。

 戦後の冷戦期を通じて自民党は、長らく実質的に唯一の政権政党であり続けた。経済成長の果実を公共事業や補助金で地方に再分配し、政官業ともに潤う「自民党システム」ともいうべき仕組みを完成させた。

 だが、冷戦も高成長も終わり、システムの行き詰まりは覆い隠せなくなった。市場原理を重視する小泉改革で目先を変えたものの、それが格差を広げ、農村部など党の伝統的な支持基盤を破壊する皮肉な結果を招いた。

 右派からリベラルまで、幅広い議員集団を束ねていたアイデンティティーは、常に政権党であるという一点にあった。だからこそ権力を奪われたいま、党内は喪失感に覆われている。

 この先、党の針路をどう定めるべきか。ここは頭を切りかえて、民主党の教訓に学んではどうだろうか。

 96年の結党以来の民主党の歴史は、挫折の繰り返しでもあった。

 年金保険料の未納問題、勝てると思った郵政選挙での惨敗、そして偽メール事件。そのたびに党代表が辞任に追い込まれながらも、民主党は結束を崩さず主張を明確にし、政権を託されるまでの信頼をようやく勝ち得た。

 自民党に求められているのは、長年の政権担当から生まれた驕(おご)りを謙虚に反省し、国民の声を聞く指導者を選び、政策と党のイメージを作り直すことを通じて信頼を回復することだ。

 所帯は小さくなったとはいえ、半世紀余りにわたって日本の政権を担った実績はある。それを生かして政権を批判し、よりよい対案を出す。

 たとえば、子ども手当や高速道路の無料化など、民主党の看板政策が本当にこの国にとってプラスなのか。財源を生み出すためにどこかにしわ寄せがいかないか。そうした指摘は民主党も軽視はできまい。

 政権交代があり得るという緊張感の中で政党が競いあうことによって、政策の質が高まっていく。そうした政治が日本に根付くかどうかは、野党・自民党の今後の奮起にかかっている。

 自民党は、新首相の指名後に次の総裁を選ぶという。「選挙の顔」となりうるという理由だけで指導者を選ぶような浅はかなことをしている余裕はもはやあるまい。

 これから党のよって立つ基盤をどこに定めるのか。この際、時間をかけて論議を深め、新たな党のアイデンティティーを見つけ出してほしい。

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